9.薬師の恩恵と少しの仇
翌日からハルとレイラによる体力と魔力が同時回復できるポーションの改良が始まった。
改良と言っても、後は長期保存が出来るかどうかだったのでレイラ達の元住み家で引き籠もって研究をしていた。
数日して、ようやく2人の理想のポーションが出来上がり、喜びいさんで屋敷に帰ってきた。
「いよっしゃ、できたぁ!」
「あー……長かったー……」
そんな2人を見たショコラが驚く。
「何が出来たんだ? 数日あたりなんか急に来た家に籠もってたが……ってオイ! お前らちゃんと寝てたのか!?」
レイラは体はボロボロでないものの、目のあたりには隈が出来ており、寝不足なのは確かだ。
一方、ハルは言わずもがな。かつて3ヶ月ぶっ通しで読書していたこともあり、まだまだ元気そうだが、どこか疲れていそうなのは確かだった。
「まぁ、ポーションで回復してましたけど、流石に無理がありますよね……」
「お腹空いた……」
「お前らな……」
ショコラはそんな2人を呆れながら見る。ふと、思い出したようにショコラは聞いた。
「ところでお前ら、何作ってたんだ? 数日引き籠もるぐらいの事なら凄い大作でも作ってたのか?」
「はい、体力魔力同時回復できるポーションを」
「おーい待てい! それ出来たらとんでもないぞ!? なんてったって今の技術でも難しいって言われてるからな!?」
慌てて言うショコラにレイラは1冊の本を取り出し、興奮して語り出した。
「これのおかげですよ」
「これ……200年ほど前に刊行された薬草学の本じゃねえか! 当時あまりにも画期的すぎると見向きされなかった……」
「はい、あくまで当時はですがこの方法なら現代でも使われてますゆえ、精製出来たのです。とは言っても、1日に10本が限界ですけどね……」
「充分だよ……」
呆れた表情から一変して感心した表情になるショコラ。そして労るように2人に言う。
「とりあえず、レイラお前はまず寝ろ。いくらポーションで回復したと言っても体は疲れてるからな、ハルは……もうじきご飯出来るからもう少しだけ待て」
「お気遣いありがとうございます」
「分かった。じゃあそれまで図書館で本読んどくね。レイラ、この本どうする? 読みたかったら、しばらく借りてもいいけど……」
「はい、もうしばらくだけ読みたいと思うので」
「分かった」
3人の少女はそれぞれ自分のすることをするため、バラバラに別れた。
さて、その次の日。レイラは目覚めてシャワーを浴びて着替えるとすぐにリディルの方に出掛けていった。そして昼頃、金貨の袋を抱えてほくほくとした様子で帰ってきたのだ。
「ただいま! 例のポーションが凄く高く売れたんですよ!」
「やっぱりか!」
「? 例のポーションとは?」
昨日以前のやりとりを知らないルビィとクレセにショコラが説明する。その内容を聞いた2人は尊敬のまなざしをレイラに向けた。
「へぇ~やっぱレイラは凄いな!」
「流石です、レイラ様!」
「ふっふっふっ、もっと崇めなさい!」
ポーションが売れた事がよほど嬉しいのか、普段のレイラではまずあり得ない発言をすしたが、それでもとんでもない偉業を達成したので、レイラも鼻が高くなっていた。
さて、ルビィがその日の晩ご飯を作ろうとするとそこにレイラが上機嫌で入ってきた。
「あら、ルビィちゃん。晩ご飯作るの?」
「はい、レイラ様」
「変わるわ」
「え!? そんなレイラ様にそんなこと!?」
「ううん、いいの、クレセと違って私はまだここの家の人たちのお手伝いとかしてないし、少しは料理できるからね」
「そうですか、ではお言葉に甘えて」
「ええ、ゆっくりして頂戴」
レイラに言われて台所から出るルビィ。そして、しばらくの間自室でゆっくりとしていたのだ。
さて、夕食の時間。台所に降りたレイラ以外の全員を待ち受けていたのは絶望だった。
紫色の得体の知れないスープに、細切れの進化形のサラダ。そしてお肉は真っ黒だった。
れ全員引き攣った顔をしていたが、特にルビィは任せたこともあったのか怯えるように震えていた。
そんなルビィの様子に気づいたのかクレセが弁解する。
「ごめん。先にあたいがレイラは薬のこと以外とにかくダメと言うこと伝えればよかった」
「でも……任してしまったのは私ですし……」
「ルビィが気に病むことじゃないよ。なんならこれあたいが全部片付けるし」
「……いいのですか?」
「伊達に同居してないよ。慣れてる」
そう言い、クレセは全員分の皿を自分の方に集め、食べ始めたのだ。2人以外の全員はまだ無事だったパンを食べてその日を過ごした。
翌日。
「ごめんね、クレセ。昨日ちょっとはしゃぎすぎたみたい」
「何が……はしゃぎすぎただ……」
レイラの料理を6人分食べてしまったクレセは見事に腹を壊し、その日は丸一日ベッドで過ごした。
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