4.メイドは召喚する者です
ショコラは1冊の本を取り、そのまま降りて何やら魔方陣を書き出した。
その様子に嫌な予感しかしなかったハルだが、ショコラはそんな彼女の気も知らず、黙々と書いていく。
そこから数分経ち、魔方陣は完成した。この時にはもう降りていたハルがショコラに聞く。
「ショコラさん何ですかこれ」
「何ですかって……見たら分かるだろ、魔方陣だよ」
「そりゃそうですけど何するんですか」
相変わらず怪訝な顔をしたハルが聞くと、ショコラは自信たっぷりに言った。
「決まってんじゃないか、メイドを召喚するんだよ」
とんでもないことを言い出したショコラに対し、ハルは思わず「はぁ?」と返した。
「いや、なんでですか」
「この屋敷でかい割に今住んでいるのは私とオマエだけだ。つまり、使用人が誰一人としていない。私の力でこの屋敷の管理を出来なくもないが、ここ全体を一人でやろうとするとかなりの魔力を消費してしまう。それにさっきの話だとオマエ掃除とかする気ないだろ」
ショコラのその言葉はハルにとって図星であったため、言い返せなかった。
「だから、私が一流のメイドを召喚して掃除とか遣って貰うのがいいって訳。それに私も飲まず食わずでも生きていけられるが、魔力を補給するなら食べた方が良いからな」
「まぁ……そこまで言うなら…私としてはそのメイドやらが読書の邪魔をしなければいいだけの話ですし……」
「オッケー分かった。じゃあ早速召喚しますか」
ショコラはその本に書かれてあった呪文を唱えた。すると、魔方陣が光り出し、そこから大量の妖精が来たのだ。
「ショコラさん! これは?」
「ああ、メイド妖精達だよ。これだけ広いなら50人位は、必要だろ」
「え? でも食事とかは……」
「安心しろ、私の魔力を与えれば生きていけるからな。最も下級妖精はだが」
「他にも召喚するんです?」
「ああ、後はこの妖精達のまとめ役をな」
ショコラはまた本を持ち、先ほどとは違う呪文を唱えた。
するとまた魔方陣が光り出したが、先ほどとは違い、体が徐々に現れた。
光が無くなるとそこには二人の少女がいた。右にいる子は赤い髪の毛を三つ編みのお下げにしており、もう一方は青い髪の毛をポニーテールにしていた。
急に現れた二人の幼女に驚きを隠せないハルはショコラに問いただした。
「ショコラさん、まとめ役ってこの二人の事ですか!?」
「そうだが?」
「にしても二人とも若干幼くありません!?」
「まぁ見た目は人間の幼女とあまり変わらないな。ただ年齢はかなりのもんだぞ。私には劣るが」
その言葉にハルはアンタ一体いくつだよとツッコミそうになったが、何とかこらえ、二人の方を向く。ショコラは事もなげに二人に話していた。
「召喚に応じてきました、ショコラ様。何なりとお申し付けを」
「うん、じゃあまずルビィ、お前は半数の妖精とともにキッチン及び洗濯を頼めるか? といっても、今のところ布団を干すだけになるが……」
「かしこまりました」
「それとサフィ、お前は残りの妖精達とともに掃除を頼む。今日は1階と2階だけでいいわ」
「かしこまりました、ところでショコラ様。こちらのお嬢様は一体どちら様で?」
サフィと呼ばれた少女はハルの方を見てショコラに聞いた。ショコラは二人にハルを紹介した。
「コイツはハル。一応この館の女主人だ」
「一応って何よ……一応って…」
「なるほどそうですか、ではハル様今後ともよろしくお願いします」
「え? あ、こっちこそよろしくね」
ハルに挨拶すると二人の妖精は早速妖精を集め、彼女らの持ち場へと向かったのだ。
「ああそうだ、さっきも説明したが下級妖精は私の魔力があったら生きていける。しかし、ルビィとサフィの二人はちょっと別なんだ」
「別ってどういう事ですか?」
「あの二人は妖精達の中でも上級の方で、名前をつけることによって主従の契約を結べるんだ」
「え、じゃあ過去に召喚したことあるんです」
「そうだ、その時に名前も付けたからな」
「そんなことがあったんですね……」
「それに上級ともなると魔力のコントロールも上手く出来るようになるからな」
「へえ~凄い……」
「最もその妖精達を保つのに必要な魔力は食事や睡眠で賄うが」
「なるほどね……まぁ今の私には必要ないけど……」
「そう頑固になるなって、とりあえずルビィのご飯食べてみろって、上手いから」
いたずらっぽく笑ったショコラに対し、ハルは少し不機嫌そうに睨んだ。
そこからしばらくの間ハルとショコラは読書をしていたが、図書室の扉がコンコンとノックされ、開く。そこにいたのはルビィだった。
「ショコラ様、ハル様、ご夕食の用意が出来ました。ダイニングルームへ案内いたします」
「お疲れ様、ありがとう案内して」
そう言って席を立つショコラだが、一方のハルは本から目を離さない。
「行かないの?」
「そんなにお腹空いてないし……」
「まぁまぁ、さっきも言ったようにアイツのご飯は絶品だぞ? 一口でいいから食ってみろって」
ショコラがそこまで言うならと、ハルは本を置き、彼女について行った。
ルビィが二人をダイニングに案内するとそこには四人分のオムライスが机に乗ってあった。
「お、美味しそうじゃん」
「恐縮です」
「こっちはサフィの方か?」
「はい、もう少ししたら彼女も来るかと思います」
するとダイニングに慌ただしくサフィが来た。
「ルビィー、終わったわよ」
「サフィ、そんなに慌てるんじゃないわよ。ショコラ様もハル様もいるのよ」
「えー、だってルビィのご飯おいしいんだもん」
「はいはい早く席について」
「はーい」
と、いち早く席に座るサフィをルビィは呆れながらみる。その後にショコラとハルも座り、最後にルビィが席に着いた。
「それじゃあ、いただきます!」
「やっぱりおいしいー!」
「ホントルビィは料理の天才だな!」
「ありがとうございます」
オムライスをもぐもぐと食べる三人だが、一方でハルは少し食べるのに戸惑っていた。
「ハル食べないのか? 上手いぞ、これ」
「え、今から食べようかと……」
ハルはその勢いに押されるまま、スプーンに乗せ、オムライスを食べる。
一口入れるとすぐに顔が変わった。
「おいしい……こんなオムライス今まで食べたこと無いわ」
「3か月も食ってなかったら、そうだろ」
「え!?3か月も!?」
「よく生きてましたね……」
「まぁ、食事とか無くても大丈夫だからね……」
「ほぇー……凄い」
そんな会話をしながら和気あいあいと、4人はご飯を食べた。
「しっかし食べたなー」
「ハル様も気に入ってくれて何よりです」
「まさか三杯もおかわりするとは……」
「美味しかったからね、つい」
そんな会話をしながらダイニングから出る4人。
ハルはあくびをしながら言った。
「でもたくさん食べると眠くなるわね……」
「それなら私にお任せを! ハル様の部屋はこちらになります」
「じゃあ、サフィ案内頼むわ。ルビィは片付けか?」
「はい、サフィくれぐれも失礼の無いようにね」
「はーい」
サフィに案内され、ハルは自分の部屋に着く。といっても初めて入るがその部屋はかなり広く、日当たりもいい場所だった。
「ここ私の部屋? 素敵なところね」
「はい、我々一同丹精に心を込めて掃除しましたから」
「ありがとう」
「いーえ! これぐらいどうって事無いですよ! それではハル様、おやすみなさい」
「サフィちゃんも案内ありがとう。おやすみ」
サフィは軽くお辞儀をして、部屋から出た。
サフィが去ったあと、ハルは改めて部屋をみる。
淡い水色のカーテンにアンティークな家具達。ベッドも柔らかそうだ。
「しかし、良い趣味してるわね~気に入ったわ」
ハルはそう言い、ベッドの方へ歩き出す。そして、布団の上に倒れたのだ。
「わ~良い匂い……。お日様の匂いがするわ…」
布団は昼に干されていた事もあり、かなり暖かかった。
布団の匂いを嗅ぐと眠気が増したのか、ハルはだんだんと意識が遠のいていた。
最後の理性を振り絞って、何とか掛け布団と敷き布団の間に入り、彼女は実に3か月ぶりに眠ったのである。
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