3.図書館の魔女は心配症

  春がこの世界及び屋敷に来て早3か月。彼女はこの間ずっと読書をしており、屋敷の外はおろか、この図書館からも出ることは無かった。



 今日も今日とて図書館に籠もって読書をする春。

 この期間ほとんど読書に費やしていたので、この部屋の本なら全部読んでそうだが、ここの図書館はかなりの量を保有しており、集中して読んでもまだ7割ほどしか読んでいなかった。


 さて、春が先ほどまで読んだ本たちを元の場所に返してまた新しい本を取ろうとしたとき、何か違和感を感じた。まるで、誰かがいるような気配がするのだ。

 そして、本を持って振り向いた時、その違和感は正しいことが証明されたのだ。



 春が振り返るとそこには明るい栗色の髪の毛を左のサイドテールにしている自分とそんなに変わらない位の少女がいた。

春は人がいたとは思わず、驚いて叫んだ。

 「ぎゃー! おばけー!」

 「誰がおばけだ!」

 「しかも喋ったー!」

 「うるさいわ!」

 「え、おばけじゃないの?」

 「当たり前だ!」

しばらくの間互いに見知らぬ存在に二人ともびっくりしており、大声で会話していた。



 ようやく落ち着いたので、サイドテールの少女は春に名前を名乗った。

 「私はショコラ。さっきも言ったけどここの魔女であり、精霊よ」

 「……私はハルです。3か月前からここに住んでます」

 「うん? 3か月前から住んでんの?」

 「はい、そうですけど……」

 「え……おいおいちょっと待て! じゃあずーっと読書してたの?」

 「でも、お風呂とトイレと洗濯はしてましたよ」

 「あ、そこはちゃんとするのか…じゃなくて! 食事は? 睡眠は?」

 「そう言えば、採ってませんね」

今更気づいたように言ったハルにショコラは頭を抱え、後ろを向いた。

一方、ハルもハルで「住居人がいたとは聞いていないけどなぁ……」と不思議そうに呟いたのだった。



 すると、その言葉を聞いたショコラは急に前を向き、ハルに指を指しながら言った。

 「いや、住居人じゃなくてここの守護者!」

 「あ、そうだったんですね。てっきり、不法侵入か悪霊か何かかと……」

 「バッチリ合法だ、コノヤロー!」

確かに言われてみれば、自分全く掃除してないのに、部屋とか綺麗だった気がする、とハルがまた場違いな事を思っていると、ショコラがまた彼女に向かって大声でまくし立てた。



 「ていうか、そもそも3か月も飲まず食わず、あげく寝ず! ずっと読書に費やしてたのに何でアンタ死なないのよ!普通は死ぬわよ! 心配になって出ようと思っていたのに平気なもんだから出るタイミング分かんなくなっちゃったじゃないの!」

 「あ、心配してたんですね」

 「当たり前だ!」

大声でまくし立てたせいか、息切れしているショコラに対し、ハルは冷静に答えた。



 「まあ、私ここに来るときに女神様に『食事とか睡眠とか気にせずに読書したい』ってお願いしましたからね……」

 「そんなめちゃくちゃあるの!?」

 「あるんですよ、それが」

 「あるんだ~へぇ~凄ーいって違うわ!」

 「おお、ノリツッコミ」

 「やかましい!」

そう言い、ショコラはまた息が切れそうになったが、何とか冷静さを取り戻し、ハルに言った。



 「でもとりあえず、ご飯とか食べる? 流石にお腹空いてるよね」

 「いえ、全く」

 「じゃあ睡眠?」

 「これっぽっちも疲れてませんね」

 「オマエどういう身体してんだよ!」

 「というか、『そういうの気にせずに読書したい』って願ったのに何でこんな面倒くさい事しなきゃいけないんですか、全く」

 「それも一理あるけど……」

そう言って感心したショコラをスルーしていつもの定位置に向かおうとしたハルをショコラが引き留めた。

 「何ですか、急にローブ引っ張って、読書の邪魔しないでください」

 「いや、そういうお前をその気にさせる方法があってだな……」

そう言うショコラを怪訝な顔してみるハル。

しかし、ショコラはお構いなしに1冊の本を手に取り、彼女の前に立ったのだ。

まだ、怪訝な顔しているハルに向かって不敵に笑いながらショコラは何か書き始めたのだ。

それを見たハルは嫌な予感を感じたのか眉をひそめた。

 

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