靡く髪がもったいない


「……」

「はぁ」


 冷たい風は、彼女の長い髪には少し合わない。

 儚く揺れ動く髪が擦れ合って傷ついていくからだ。

 それでも彼女はその髪を切る事は無い。

 纏める真似も、する事は無い。

 髪と言うのは歴史だ。

 自分が生きた年月が成長と言う過程を以て教えてくれるものだ。

 この長い髪は、それ程自分が生きた証。

 自分が生きていると実感しているものに過ぎなかった。


(……なんて)

(詩人みたいね)

(ただ)

(髪を切らないのは)

(まあ、生きている証)

(なんて事もあるけれど)

(基本的に)

(短いのは似合わないと思うのよね)

(と言うか)

(私はこの髪型しかしてないから)

(短い髪、なんて)

(想像した事も無いわ……)

(それ以前に……)



「ごめ」

「は……んん」

「ごめん、璃々ちゃん」


「遅れたら」

「私が怒るとでも思ったのかしら?」


「じゃあ」

「遅れても大丈夫だった?」


「怒るに決まっているでしょう?」


「え、酷くない?」


「クスッ……冗談よ」

「少し考え事をしてたから」


「考え事って」

「何してたの?」


「ん……ちょっと」

「髪でも切ろうか、なんて」


「えーッ」

「勿体ないよッ」

「綺麗な髪なのにっ」


(そう)

(それ以前に)

(此処まで伸ばしたのに)

(勿体ないわ)


【次回】https://kakuyomu.jp/works/1177354055478314367/episodes/16816452218505889468

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