子供を亡くした思いと怒り


「なんだこの襤褸雑巾」


「ひ、ひぃぃい!」


「……あ」

「先輩、大丈夫ですか?!」


「八峡ッ」

「それが下陰ッ」

「保護をしてっ!」


「あ?この雑巾が?」


「くッ」

顎犬がっけん

(牽制用の擬獣じゃダメだ)

(奥の手……これしかない)


「ッ」

「切断した筈の腕をッ」


「猿の手」

「その効果は既に立証済みだろう」

「動かない方が身の為だ」

「自発的に発動をさせてしまうからね」


「なんだそりゃ」

「バカも休み休み言えや」


「待って」

「八峡、動かないで」

「相手の言う通りに……」


(あれは)

(ソノコに対してなら)

(其処まで恐ろしいものじゃない)

(それは彼も承知している)

(それでも、その腕に頼ると言う事は)

(猿の手本来の力)

(願いを叶えようとしている)

(私たちに対する外敵の排除)

(その願いなら)

(八峡も、私にも喰らってしまう)

(ソノコは私の神胤を供給するから)

(天井知らずに強化し続けるけれど)

(供給源である私が狙われれば)

(それでおしまい)


「……僕は」

「争いは好まない」

「それでも」

「人を殺したのは先輩の為」

「先輩の願いを叶えたい……」

「だから」

「交渉をしよう」

「その男を此方に差し出してくれ」

「そして」

「先輩の安全を保障して欲しい」

「それを守ってくれれば」

「ボクは喜んで投降する」

「然るべき罰を受けよう」

る。


「やめ、止めて、くれ……」




「黙れッ!なにがッ止めてくれ、だッ」

「そいつは……そいつ、はッ」

「そいつは私の」

「私の大事な祐大を……」

「殺した、殺したんだ」

「……なんでそいつが」

「何も反省してないそいつが」

「今も生きて、愉しんで」

「私たちをば、馬鹿にして」

「じけ、事件を……」

「武勇伝のよ、ォに……話して」

「それ、それが、罷り通っている」

「おかしい、おかしいだろッ!」

「あいつが……あいつがが死ねば良かったんだッ!」

「祐大は、まだ……十歳にも……」

「なって、なって……ないのに……」

「……お前が、お前が遊び感覚でッ!」

「あの子を殺したんだッ!」

「涙を流して……泣きじゃくって……」

「必死に、必死に逃げて……」

「最後まで……私の名前を呼んで」

「お前の仲間が、言ってた……」

「『おかさんたすけてっ』」

「『たすけて』……って」

「泣きながら……逃げたって」

「……それを、それをお前はッ」

「笑って馬鹿にして……」

「あんな小さな子供が……」

「お前みたいな男に追いかけ回されて……」

「どんなに怖かったか……」

「恐ろしいと、感じたか……」

「分かるワケないだろうな……お前にはッ」

「電車に轢かれた祐大を見て」

「『俺、知らねぇ』なんて責任逃れをした、お前にはッ!!」

「死ねよ……死ねッ死ねェ、死ねェエエッ!」

「あー……ひ、ぐぁ………は……」


「どうか」

「寛大な心を」

「彼女の気持ちを、汲み取ってくれ」

「其処に居る男は、死ぬべきだ」

「だから、頼む……」

「その男を……」


(確かに)

(さっきの話を聞けば……)

(この男が、悪い奴、だっていうのが)

(良く分かるわ)

(生かしちゃいけない)

(そう思えてしまう)

(……だけど)

「………私は、祓ヰ師よ」

「どれ程の事情があっても……」

「人を見殺しにする事は、出来ないわ」

「どれ程の悪人だとしても……」

「人である以上」

「規約に従い、私は救う」


「……交渉は」

「決裂、の様だね」


「……まあ、待てよ」



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