八峡の好感度が砂粒程度上がった瞬間


「あむ、はむ」


「………」


「圧巻ですね」


「ん、どしたの?」


「いえ、あの、静月」

「よくそれ程の量を」

「食べれるわね……」


「え?そうかな?」

「あー、そっかそっか」

「うん、私さ」

「あまり食べても太らないんだよね」


「へ、えぇ……」


「体質っていうのかな?」

「いくら食べても」

「少しは体重は増えるけど」

「けど、次の日には」

「元の体重に戻ってたりしてて」

「別段脂肪とか付いたりしないし」


「でも食べ過ぎで」

「浮腫んでしまうでしょう?」


「ん?あー……はむ」

「むぐ、んぐ……んー」

「無い、かなぁ?」

「食べ過ぎて」

「体調が悪くなった事もないしさ」

「はむ……むぐ」

「で、璃々ちゃん」


「え、あ?はい、何かしら?」


「何か悩み事でもあった?」


「……え?」


「いや、あのね」

「璃々ちゃんと出会った時」

「なんだか、気分が沈んでたから」

「何かあったかなーって……」


「それは………」

「えぇ、そう、だけど」

……言えないわ

そんな

私が落ち込んでいるのは

お婆様の評価が上がらない

なんて、そんな悩み

言える筈が無い……

何か、別の事を

負の感情を抱いた時のことでも……。

あ、そうだわ。

「……この間」

「いえ、つい先日」

「金髪の男に」

「ペットボトルを投げられたの」

「それが無性に腹立たしくて」


「ん?金髪」

「………はむ、ぬぐ、ん………」

「それって、八峡じゃない?」


「やかい?」


「うん、八峡」

「八峡義弥」

「知らない?」

「一年上の先輩が」

「死んじゃった話」


「あぁ……確か」

「五十市、依光……そういう名前」

「だった筈、たしか」


「うん」

「その死に関係してるのが」

「八峡で」

「今、私と同じ寮に居るんだ」


「え?それ大丈夫なの?」

「貴方、何かされてない?」


「んー、大丈夫」

「と言うか八峡って」

「案外無害って言うか」

「むしろ、優しいよ?」


「え?冗談でしょう?」


「ううん、今日だって」

「寝惚けて落ちそうになった私を」

「八峡が助けてくれたもん」

「そりゃ、私も」

「八峡の噂を知ってたけど」

「けどね」

「一概に、悪い奴、ってワケでも」

「無いと思うんだ」

「ペットボトル投げたのも」

「何か理由があったんじゃない?」


「理由って」

「あの後、私の目の前で」

「ゴミ箱をブチ撒けたのよ?」


「……多分」

「ムシャクシャしてたんじゃないかな?」

「……うーん」

「そんな悪い事してると」

「中々擁護も出来ないなぁ……」

「はむ……」


「……はぁ」

「でも」

「八峡が」

「貴方を助けたのは事実?」


「うん」

「寝惚けてたけど」

「ちゃんと覚えてる」


「そ」

「……意外ね」

「そういう人らしい部分も」

「あるのね、彼」


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