これぞテンプレ! ……お代わり!

「さて! さっきはベティ嬢に魔法以外のことに関する歴史のレクチャーを受けたので、今度は僕が魔法に関する歴史の講釈をたれようかな!」


「何対抗意識燃やしてるんですか!?」


「良いじゃない、ベティ嬢がガチ戦闘に熱心なように、僕は魔法戦闘に熱心なんだよ!」


 いい笑顔で言い切った。これ止まらんやつだな。


(諦めるしかないのかなぁ……)


「ここが作られたのは約1000年前、突如として現れた地底からの侵略者、魔王。彼の者を迎え撃つためだとといわれている。その戦闘は激しく、魔王の軍勢こそは駆逐できたものの、魔王一人で皇国軍と渡り合える、いや、それどころか押し込まれてしまってね。劣勢に傾いてすぐ、この渓谷に拠点を作り始め、最終局面にて逃げ込んだんだと推測される」


「魔王、とは破壊的な大規模攻撃が出来たと聞く。何故このような逃げ場のない所に逃げ込んだ……のでしょうか?」


「ハハッ! 普通に話しかけてくれて構わないよ。同学年、いわば仲間じゃないか!

 さて、ここに逃げ込んだ理由についてだが……ベティ君。君はよく知ってるよね?」


「はい! ここは沢山の消魔石が算出される渓谷であります! 魔法が強い侵略者達を迎え撃つのに最適な場所であります!」


「そう、魔法を打ち消す消魔石なるものが算出されるだけあって、余り難しい魔法が使えなくなる傾向にあるんだよ」


「で、でも、それでは皇国軍も魔法が使えないんじゃ……」


「それがこちらには使えるようになってるんだなぁ! それも大規模魔法を! ……機密事項らしいけど」


「ちょ、それ言っちゃ駄目な奴!?」


「ハハッ! 公然の秘密ってやつさ! でなきゃ、ここで何度も何度も撃退できたなんて誰が信じるのさ!?

 事実、ここ数百年の間は、かりに皇国内に攻め込まれても使っていないんだからね」


「なんで……って、相手が避ける? からか」


「ハハッ! 君は察しが良いね! そして君だけだよ! 僕に普通に話しかけるのは!」


「あ、申し訳……」


「良い良い! そのままでいてね! 僕、あの教室の中じゃ疎外感が酷いんだ!」


「は、はぁ……」


 お咎め無しらしい。


(そうね……)


「ちなみに、魔王を退けた証拠、って言えるのかどうかわからないけど、その時の皇国による大規模魔法で奈落へと封印したと思われている。その名残なのか、古城の最奥には底の見えない裂け目があるそうだよ? その名も『奈落の淵』! 名前がなんか格好良いね!」


 おお。フラグだな。


(そうかもだけど、魔王復活なんてイベントはまだまだ先だし、きっかけさえ皆無だから大丈夫よ)


 本当かなー?


(そうそう。そんな簡単にフラグが立ってたまるもんで)


「おいお前ら、騒がしいぞ」


 違うフラグ来たー!


(……ぅそーん)


「自分達ばかりがこの場に居ると思わぬことだ。これだから下級貴族共は……」


「まったく……。生まれが知れる」


「同感だ」


 おお? これはアレですか? テンプレってやつですか?


(テンプレって言うけどね……割と洒落にならないのよ? リアルだと。歯向かえる材料が……)


「ハハッ! ごめんね! ちょっとばかりヒートアップしちゃってさ!」


(居たよコンチクショウ!)


 困った方向で、だなー。


「……口の利き方がなっていないな? 男爵家風情が我ら伯爵家の者と対等な口を聞いて良いと思っているのか?」


「これだから半平民貴族はなってないというのだ」


「ハハッ! 相手の事情も分からないで噛み付く貴族なんて、もっとたかが知れると思わないかい?」


「こいつ……!」


(ぬあー! くっそ、ややこしいことを……! こんなテンプレ要らねぇ! ……あそーだ)

「(ベティ! ベティ!)」


「(な、なにかしら……?)」


「(何で令嬢風? ……あいや、マリオ様が気をひきつけてる今のうちにオランジェ女史を呼んできて!)」


「(!! ラジャ!)」


 ベティはこのグループの中では一番小さいし、肉弾戦を語らせさえしなければ影も薄い。いい判断だな。


(だしょ)


 ただ、マリオが煽る煽る、煽りまくってる。


(げ)


「ハハッ! 僕の記憶が正しければ、そっちの君は家も継げず、分家も与えられず、高位貴族の子女のお零れを狙うハイエナ君じゃなかったかな??」


「!! お前!」


「そっちの君なんて家じゃ居ない者扱いの腫れ物じゃないか! 良く人の事悪しざまに言える度胸があったもんだね! あ、そうか! その開いては厄しか呼ばない顔についた開閉可能な穴が疎まれる原因なんだね! 良く学校に入れてもらえたね! もしかして他家の子女を捕まえられたらそれはそれで良し! でなければ放逐だとか言われてたり?? あ! 図星!? 図星なんだ!! かわいそうに、ハハッ!!」


「おのれ! 何が可笑しい!!」


 おい、なんかすげーなあいつ。


(凄過ぎて意識飛びそう……。何故あんなに的確に抉るのか……)


「もう我慢ならん! この場で斬って捨ててくれる!」


「待て! それは俺がやる!」


「ハハッ! 何とも堪え性のない失格貴族だね!」


「「うるさい!!」」


 おお、遂に剣をぬいちゃったよ。一触即発だなぁ。


(ああ……既に手遅れ)


 バカ貴族共が抜いた剣を振り上げ、襲いかかろうとしたその時……!


 キンッ!


(ヒッ!)


「……あぐっ!」「……うあっ!」


 一瞬で二人の剣が遥か後方へと飛ばされた。余りに早くて音は一つだけにしか聞こえなかった。


「だ、誰……あっ」「えっ……?」


「少々、悪戯が過ぎるのではないかな? 君達」


「シャムリア侯爵家令嬢……グレイス様」


 おお、来たよ、ストーカー予備軍。


(ヒィィィ! ……でも格好良い! 惚れそう!)


「し、しかし、グレイス様」


「この者が身分を弁えず……」


「ふむ、身分、ね。それに関してはそちらの方に説明を譲るが、弁えていないのは君達の方だよ」


「えっ?」「それはどういう……」


「手間をかけさせてしまったね、グレイス嬢」


「いえ、場を沈めるのも上に立つ者の当然の義務」


「君のような優秀な思想の持ち主ばかりだと私も楽できるのだが……なぁ、どう思うねイルジオラ男爵家当代当主、マリオ殿」


「「……!?」」


「ハハッ! 耳が痛いね、オランジェ女史。まるで僕が悪いみたいだよ!」


「そう聞こえなかったのなら医師にかかることをお薦めする」


「ワァ、本気モードだね。う゛うん、申し訳ない。少々ハメを外し過ぎたようです。どうぞご容赦を寮監殿。グレイス嬢もお手を煩わせてしまいました。謝罪致します」


「気になさらずに、マリオ殿。父がまた魔法談議に花を咲かせたいと申しておりました。顔など見せに来てやっていただければそれで……」


「感謝致します」


(わぁ、貴族っぽい)


 お前も貴族の端くれ……ううん、もどきだろうに。


(言い直して間違えるってどういうこと? モドキじゃないよ? 不幸なことに!)


「さて、そこの二人」


「……!」「……!?」


 おお、表情から不平が見て取れるな。伯爵家代行権限及び、寮監という皇家に保証された立場の人物相手にあの態度はやばいよな。


(そうねぇ。馬鹿なのかしら)


「(スゥ……)痴れ者がッッ! 貴族籍にある者が恥を知れ!!」


 ビリビリビリ……


(くぁ、キーンってなった……)


 皆、耳を抑えてるよ喪女さん。知ってたんじゃね? というか、何であんた知らないの?


(……普通に忘れてた)


 はいはい。残念残念。


「自らの立ち位置も見えず、相手の立場も見ず、短慮に武力行使するなど言語道断!! 下手をすれば家に迷惑がかかるとは思わんのか!!」


「「っ……!!」」


 顔面蒼白になって息を呑む二人。マリオの情報が正しければ、二人はこの学院在学中に何かしら縁を結ぶ事を条件に出されているはず。逆に家への誹りを招くようなマネをしたとなれば、放逐も待ったなしだな。


「まぁまぁ、オランジェ女史。彼らを煽りに煽った僕が言うのも何だけど、落ち着いて、ねっ!」


「……マリオ殿、貴殿も反省なされよ」


「ああ、怖い、そう睨まないで。

 ……で、そちらの二人はどう落とし前をつけるつもりかな?」


「「………………」」


 落とし前つけるつけないの問題じゃないような。


(マリオ様次第よね、どう考えたって)


「ここは僕に貸し一つ……って事で手打ちにしても良いよ?」


「貸し……」「ひとつ……」


「それで良いかな?」


「「(コクリ)」」


「良し決まり! じゃ、解散って事で……」


「そんな訳に行くかマリオ・イルジオラ。少々話がある。ついて来い」


「……やっぱり?」


 デスヨネー


(ネー)

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