第51話 予告状?
『予告状
ファントア暦 三月五日 深夜
ラグンヒル邸にて、
怪盗 処刑勇者』
わたしは再度、机上に広げた予告状を読み返してみた。門番のグールがわたしに届けた手紙には確かに、処刑勇者と記載されている。
間違いなくかつての勇者キーレが、怪盗を気取っている。
このふざけた文は何のつもりか!
「奥様、まずいことになられましたな」
使用人の男グールがそわそわと手をもんでいる。このような事態になったのは、誰かが心臓の話を他言したからではないのか?
「本当に誰も金庫のことは話していないの?」
わたしは平手うちをして使用人を床に這いつくばらせる。
「心臓のありかのことなど話すはずがありません!」
わたしと娘二人の合わせて三人は、心臓を潰されない限り死なない。
娘二人とわたしは、父親が死んでから、人間に殺されることを恐れた。
それからは、腐敗を防ぐ防腐魔法を自ら心臓にかけた上で抜き取り、この屋敷の保管庫に保管して日々暮らしている。
それを勇者が知るはずがない。
待って、もしかしたら……。
わたしの脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。娘たちは既に勇者に捕まった。娘たちも町に人間狩りに行ったきり、今夜は戻ってきていない。
「まずいことになったわ。わたしたちの殺し方を、勇者はもう知っているのね」
「失礼ですが、ラグンヒル婦人。元勇者の捕獲につきましては、この元勇者討伐隊参謀のマルクにお任せして頂けないでしょうか?」
この男マルクは既に崩壊しているリフニア国より派遣されてきた傭兵。生まれはリフニア国ではなくセスルラ国と言うが何者なのか。
肩まである金髪と、すらりとした高身長。そして、傲慢な笑み。リフニア国のエリクとかいう王子の、好みそうなタイプの高圧的な態度の男。
「あの男はわたしと娘の心臓を狙ってくるのよ。いくらわたしたちが不死身だとしても、あの勇者は心臓のありかをもう把握してる。それも、今夜現れるのよ。よりにもよってこのわたしの屋敷に!」
「ええ、しかも犯行予告という自滅的な手法によって。あの元勇者は自分の身が今どんな立場にあるのか分かっていないようだ。このマルクが派遣されたのは、こういう事態を想定してのことだ」
「あなたが一体どんな役に立つというのよ」
マルクという元勇者討伐隊参謀は、口の端を
「勇者は必ず保管庫に現れるのならば、幾重にも罠を張り巡らせればいい」
「そんなの前からやってるわよ。あの地下の保管庫にわたしたち一家の命を預け入れているのだから」
「いえ、あんな魔法陣など見れば誰でもかわせます。壁から飛び出す槍や、落とし穴、針の道。まるで魔女の考えるような罠だが、勇者には無意味。ここは一つ、私も保管庫の扉に呪いを」
マルクという男の説明の最中、わたしを震撼させるできごとが起こった。屋敷の窓の外で誰かが手を振って笑っている。
いや、手を振っているのは血まみれの二人の娘。
首を人間の腸で巻かれて木から吊るされている。でも、あの子たちは不死身だから死ねない。
手を振れと横で命令しているのは、木の上の勇者!
「あの、戯け勇者がああああああああ! わたしの娘たちに何をおおおおおおおお!」
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