第50話 吟味

「イーダ見て、今日は人間の骨全部で二十本も引っこ抜いてきたよ」


「ノラすごい。でも、それ甘いよ。ちゃんと拷問した? ここは勇者と仲良かった町の一つだもん。もっとがんばらないと。目玉もちゃんとえぐって、心臓も取って」


「そんなに一気に食べられないよ」


「じゃあ、持って帰って乾燥させてブローチにしたらいいじゃない。目玉のピアスとかもきっと白くてかわいいのができるよ」




 お、相変わらず派手にやってるなぁ。俺は優しいから遠くで双子のやりとりを見守ってやる。




 町の人間はもう壊滅しているしな。仮に壊滅していなくたって、流石に仲が良かった町でも俺のことを快く思ってくれるだろうか? 


 どっちにしろ。俺の処刑をあざ笑ったこいつら双子とその母親は、俺への生贄サクリファイス




「じゃぁ、腕持って帰って飾ることにする。インテリアにする」


「うわー、それ楽しそう。お屋敷のどこに飾ろうかな」




 ノコギリでギコギコやってるなぁ。俺は物陰から出てその辺に転がる肉片を踏みしめつつ、双子に声をかける。




「久しぶり。元気に処刑サクってるか?」




「!」

「うそ、ノラ、勇者だよ!」




 驚愕する双子。さて、どっちが美味そうな悲鳴を上げるかな。勇敢にも姉のノラが俺にノコギリを向ける。


 それで戦うか? 俺は両手を広げて狙いをつけやすくしてやる。




「来るか? 俺の胸に?」

 ほら、喉から手が出るくらい欲しい俺の心臓はここだぞ。




「ノ、ノラだめ!」


 イーダが止めたが、もう遅いな。かわいい俺のグールちゃん。でも、町娘も好きだったんだよな。それに、俺の好きな町もさ。


 全部血の海にしてくれたんだから、血の海で返すのが礼儀だよな。




 ノラの両手で握ったノコギリを弾き飛ばすのに、骨折魔法の類すら必要ない。くっついたばかりの指でも拳一つで吹き飛ばせるぐらいの腕力はある。


 女子供といえど顔面を殴り飛ばす。




「ノラああああああ」




「妹には辛い現実ってやつ。でも、人殺しは人殺し。お前らイカレテるんだから、それなりに我慢しろよな」




 ノラを吹き飛ばし過ぎたなぁ。ここで派手に処刑サクるのはもったいないし、やっぱり生け捕りがいいかな。


 こいつらって、かわいいし。



 家屋の壁で頭を打ったノラは、かわいい短い髪から血を流している。実に素敵な気絶する顔。イーダが駆け寄ろうとしたので、その頭を乱雑につかむ。


「は、離せ勇者!」


「お前らのお母様は、今だに俺のことを嘘つきって呼んでるのか? どうなんだ?」


「嘘つき勇者。わたしたちを旅から置いてったじゃない」




「そりゃ毎晩、心臓を狙われたら多少は頭に来るよな。その逆恨みか? 火あぶりのときにあざ笑いに来やがったの」




「そうよ! あなたなんか、勇者っていうけど、中身はまだ子供の泣き虫野郎じゃない。あの日、火にあぶられて泣いてたの見たわよ。きゃははははは」




 そうかそうか。俺をまだそんな目で見るか。嬉しいねぇ。なぶりがいがある。


 俺を子供だと? 泣き虫だと? あの状況で涙が出ない人間、及び種族はいるのか?




 俺はイーダを片手でつまみあげて、その左頬をねっとりとじっくりと舐め回す。




「っひひゃああああ?」




 目を細めてざらつく舌で吟味する。舌で感じられる張りのある輪郭。汗ばんで塩っ気もある。うん。こいつらでもてあそんでやろうか。あのグールの母親の前で。



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