第27話 解毒剤
「無様ね。油断してたんじゃない。ヴァネッサしか目に入ってなかったみたいだし」
一本取られたかも。アデーラは弓使いだが彼女の弓矢は、いつも木製なのは仲間の俺が一番よく知っている。
あえて、魔弾の弓兵と装備一式をそろえることで、本当に当てたい一本、アデーラの毒矢を隠すというわけか。
「まさか獲物の方から来てくれるなんて思わないだろう。興奮するなぁ。ようこそウェルカム」
アデーラは魔弾の弓兵に弓を撃つのを制止させた。その代わり、群衆のいなくなった広場にリフニア国の団長不在の騎士団が押し寄せてくる。
早くも、詠唱団が結界を張り始めた。だから、それは無駄だって。
「汗、噴き出てるわよ。興奮するのとは、また違った感じじゃないかしら?」
「いいや、これはハンデだな。俺はこれぐらいの毒じゃ死なない」
「でも、おかしいわよ勇者。その程度の毒で、汗だくなんじゃ、幸先が怪しいわね。もしかしてだけど、回復魔法が使えない理由でもあるのかしら」
なかなか言ってくれるなアデーラ。お前を
「かかってこいよ。お前が死ねばリフニア国は終わる。ほんと、情けない国だよな」
「誰が私が戦うと言ったの。ねえ勇者。自信過剰にもほどがあるわよ」
「自信過剰ね。これは俺のマイペースと言ってもらいたいな」
腹に刺さった矢を引き抜く。この痛み、狂おしいな。俺の腹に穴を空けたのは、こいつで二人目か。しかも、毒つき。
「戦うつもりがないだと?」
「ええ、エリク王子からの伝言よ。その毒、もしあなたに効くようなら伝えるように言われてるわ」
「何だと?」
「その毒、マルセルが作ったの。だから、解毒剤は彼女しか持っていない。欲しかったら取りに来たらすぐに渡してあげる」
「ま、マルセル? まさか生きてるのか?」
解毒剤が欲しいとかそういうのは、どうでもいい。マルセルが生きている? そんな馬鹿な。
あの、クソアマは確かに俺が舌を引きちぎって、首を掻き切ったはずだ。
「そこまでは、知らないわ。私としては不本意よ。私のことを今も無視しているわね、勇者!」
ああ、俺はお前の美貌のことについては眼中にないって。
「この世界一の美しさを無視するとはいい度胸よね。でも、大人しく待つわ。あなたが解毒剤を取りに来たときには、みながあなたを褒めちぎってあげるわ。自ら死にに来たって。そう、あなたに選択肢はないのよ。マルセルっていう名のついたものから、あなたは逃げられない。場所は、あなたの大好きなリフニア国の地下牢、拷問部屋。そこでみんなが待っててくれるわ」
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