閑話 偶の手伝い
「え? セリアンナさんが怪我?」
「腰痛めちゃったの?」
「は、はい……」
学園から帰宅すると、玄関には臨時休業という看板がかかっていた。
何かあったのかと思って中に入ると、フローラから説明された。
どうやら昼間に大きな荷物を持とうとして、持ちきれず踏ん張ったところで腰を痛めてしまったそうだ。
「それ大丈夫なの?」
「お医者さんには来てもらって、痛みが治まるまで安瀬にするようにって」
「そうか」
「じゃあしばらくお店はお休みかな?」
「それが……」
フローラは困った顔を見せる。
表情の理由を尋ねる前に、セリアンナさんから話があると教えられて、彼女が横になっている部屋まで案内された。
ノックをして中へ入る。
ベッドの上に寝ていたセリアンナさんが、首だけこちらへ向ける。
「あー、帰ってきたんだね。お帰り」
「ただいまです」
「大丈夫なの? セリアンナさん!」
「これくらい平気……」
無理やり起き上がろうとしたのか、痛そうに顔をしかめる。
「っていいたけどこの様でね。ニ、三日は絶対安静だって。明日だけは何とかして、お店を開けたいんだけどさ」
「無理しちゃだめだよ」
「そうですよ。それ何で明日なんです?」
「実はね。明日はお得意さんの予約がいっぱい入ってるのよ。息子さんの誕生日だからって、前々から楽しみにしててね。だから明日にはって思ったんだけど……」
少し腰を動かしただけで痛みが走ったと表情でわかる。
医者の言う通り、しばらくは安静にしていないといけないだろう。
「それで頼みがあるんだよ。あんたら、明日代わりに厨房に立ってくれないかい?」
「私たちに?」
「うん。本当は休みにするべきなんだろうけど、やっぱり楽しみしてたからさ。もちろん無理なら断ってくれていいから」
「私は良いよ! ね? フレイもいいよね?」
「師匠が良いなら、俺もやりますよ」
明日はちょうど休みで時間もある。
最近は学園があって手伝いも出来ていなかったし、師匠もやる気のようだ。
「本当かい? 助かるよ」
「気にしないでください」
「そうそう! 困ったときはお互い様! 前まで助けてもらってたしね!」
そして翌日。
俺と師匠は朝から厨房に入っていた。
料理の中には、長い時間をかけて作るものある。
朝のうちに仕込みを済ませておいて、足りない食材がありそうなら買い出しも行く。
わかっていたけど……
「結構大変だね」
「ですね」
手伝いはしていたけど、自分たちだけで最初から最後までやるのは初めてだった。
それから時間が過ぎ、お店が開店する。
一番のピーク時間は、話している余裕すらない忙しさになる。
「次のオーダー任せていい?」
「ギリギリですけど何とかいけます。師匠のほうは?」
「もうすぐ上がるよ。あーもう、油がなくなってきたぁ~」
「フローラに補充を、って無理か」
彼女もフロントで接客に忙しそうだ。
こういう日に限って、お客さんの入り時間が被ったりする。
「次の終わったら俺が持ってきます」
「うん、お願い」
忙しいし、厨房の熱気で汗もダラダラでる。
魔術の修業とは違った厳しさを感じながら、何とか最後まで勤めきった。
「やりきったよー!」
「ギリギリでしたけどね」
「だね~ セリアンナさんって、これれを毎日一人でこなしてたんだよね」
「ええ。俺たちが来る前は手伝いもなかったはずだすし」
「凄いな~ 私にはお店と無理そう」
「俺も無理ですね」
理由は忙しいからとかじゃなくて、師匠の料理は自分だけで楽しみたいからという、俗な理由だけど。
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第二章完結です!
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