#16
「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」
目標を達成し、カインとオリヴィアを含む「ウィンスター教会」の面々はギルドの近くの酒場で打ち上げをしていた。
カルロスだけは「妻と娘の顔が見たいので」と言って帰ってしまったが、七人の大所帯である。
「どんどんエール持ってきて!」
「つまみも頼む!」
「はぁい、ただいまー!」
ちなみにこの世界では12歳を超えれば飲酒可能である。
しかも酒に飲まれるような者はほとんどいない。
次々と運ばれてくる酒やつまみに舌鼓を打ちながら、みんなはそれぞれの武勲を讃えあった。
「オリヴィアもこれでよかったんだろ?」
「ああ、おかげで目標となる火の大魔石が手に入った! 礼を言う」
「よかったねっ!」
「はっ! 精霊さまのおかげです!」
「だからケーゴはいらないってばー」
キラキラと光の粒を撒き散らしながら飛び回るアイリスは、酒場でも人気者だ。
酒豪でもあり、体の大きさの何倍もの酒を飲む――飲んだ酒はどこに行くのであろうか。
中には捕まえようとするような荒くれ者もいるが、アイリスはわざと近くを飛び回り、翻弄して遊んでいる。
「一番アイリスっ! 歌いますっ!」
「「「おーっ!」」」
「「「アイリスちゃんサイコーっ!」」」
「ボエ〜♪」
「ヘッタクソー!」
「うそだよっ! あたしの美声を聴けーっ!」
その小さな体のどこから鳴っているのかと不思議になるほどの音量と音圧で、アイリスは流行り歌を歌い始める。
「「「「「おおおおおお?!?!?」」」」」
無駄に上手い――というか、本家の歌手の声をそのままコピーしているので、はっきりいえば
「あっなーたーがぁ〜〜振ーりっ向けーばぁ〜〜、アタシ目があわせられないのぉ〜〜♪♪」
「「「アイリスちゃーーーん!!」」」
「♪♪ラァーーララーーー、はずかし乙女、女の子ぉーーーー♪♪」
「っヘイ!」「っヘイ!」「っヘイ!」「っヘイ!」
あまりの盛り上がりにカインとオリヴィアはどう反応していいか困っている様子だが、他のメンバーは慣れたものだ。
というか、グレアムだけは他の客に混じって拳を振り上げている。
「火の大魔石……要するに特大サイズの火の魔石ってことだよな?」
「いや、大きさだけではダメだ。鉄を溶かすとなると一定以上の品質と大きさが必要でな。その条件を満たす魔石は、深層の限られたモンスターからしか採取できないのだ」
「へぇ。そっかドワーフといえば製鉄だもんね」
「ん? エルフは鉄を使わんのか?」
「そうね、ほとんどは森の素材で事足りるかな。でもドワーフ製の釘はよく使うわよ」
「おお、そうか。私は魔術学院に通っているのだが、故郷から火の大魔石を送ってくれと頼まれてな……購入しようとしたのだが、高くて手が出せなかったのだ」
「えっ! 学院生なの?!」
「うむ、私の方はお前たちを知っていたぞ」
ちなみに一個上の学年だ、というオリヴィアの言葉にマーガレットとユーフェンは目を丸くした。
「学年が違うから絡むことがなかったのだろうな」
「なら、あたしたちに依頼出してくれたら取ってくるよ?」
「いや、やはり自分で取りに行きたい。協力はぜひ仰ぎたいところだが……」
最初はぶつかり合っていたオリヴィアだが、いつの間にか完全に馴染んでいた。
そもそもドワーフは人懐こくて付き合いやすい、争いが苦手な種族だ。
それこそ、中立を守るためにどちらとも馴れ合わない選択をするほどに。
オリヴィアも例に違わず、一度気を許せば素直で気持ちの良い性格だった。
そんな中、たった一人の大人である騎士のカインは――といってもカルロスと歳は変わらないが――子供たちのことを注意深く観察していた。
きっとこの子たちは強くなる。
そして年齢にそぐわぬ功績を残し、称号を得るに違いない。
そうなれば、当然ながら邪魔も入るだろう。
冒険者は荒くれ者でもさっぱりとした気持ちのいい連中が多いとはいえ……目立ちすぎれば嫌がらせをしてくるような輩も出てくるにちがいない。
袖振り合うも多生の縁。
ならば、自分が盾となり守ってやるべきだろう、とカインは考えていた。
そういえばこの子たちは孤児院出身だと言う。
ならば、孤児院の院長先生には挨拶をしておいた方がよいかもしれない。
きっと心配しているに違いない――ならば、騎士の私が「この子たちなら大丈夫だ」と保証してやれば、きっと少しは安心してくれるだろう。
そんなことを思いながら保護者気分で飲んでいると、横からドカーンと突き飛ばされた。
「ごぼっ!?」
「おい、騎士ぃい、飲んでるかぁ?!」
「オリヴィアさん?!」
「今日はすまなかった……私は騎士が嫌いでなぁ」
「は、はぁ、そうですか……」
「だけど、お前はいいやつだっ! 私は見る目がなかった! 精霊さまの導きでお前と知り合えたこと、嬉しく思うぞっ!」
「オリヴィアさん、酔ってます?」
「酔ってないっ! ドワーフが酒に酔ってたまるか!」
「しかしどう見ても……」
「私も歌うぞーっ!!」
オリヴィアはヘロヘロの足取りのまま、おっさんたちに囲まれて歌うアイリスへ「精霊さまー!!」と言って突進した。
「精霊サマじゃなくて、アイリスだねっ!」
「そうかっ! じゃあアイリス! 「炭鉱娘の恋は鉄をも溶かす」は知ってるか?!」
「……検索したよっ! ドワーフに伝わる古い恋歌だねっ!」
「歌うぞっ!」
「任せてっ!」
オリヴィアはフラフラになりながらも胸に手を当てると、とんでもない声量で歌い始める。
これまためちゃくちゃに上手い……そもそもドワーフ族は歌が上手い種族だが、オリヴィアの声量とコブシの利いた歌声は格別だった。
アイリスも負けじと大声量で合わせる――ドワーフの歌い方を真似てコブシを利かせ、輪唱じみた複雑なハーモニーを完璧に歌い上げる。
やんややんやと盛り上がる男たち――おひねりまで飛び交う中、二人の合唱は酒場の外まで響き、何事かと店を覗いた連中も、一目見れば慌てて入店し、急いでエールを注文し始める。
「俺も歌うっ!」
グレアムが混じって歌おうとすると「引っ込め小僧ーっ!」「下手くそ! アイリスたんの歌を邪魔すんじゃねぇ!」と舞台から引き摺り下ろされた。
「アイリスたーん!」
「いいぞオリヴィアーっ!!」
ケラケラと笑うアイリスと、お構いなしに朗々とハスキーボイスで歌い続けるオリヴィア。
手拍子を始めるユーフェンとマーガレット。
それを肴に酒を楽しむクルツとカイン。
もうめちゃくちゃだった。
めちゃくちゃだが、素晴らしく楽しい夜だった。
▽
それからというもの、オリヴィアは頻繁に「ウィンスター教会」と同行して迷宮に潜るようになった。
何度かパーティに誘われたオリヴィアだったが、火の魔石以外には興味のないオリヴィアはそれを断り、代わりにドワーフ製の武具や防具を格安で提供した。
騎士嫌いのオリヴィアだったが、カインとだけは打ち解け、皆が強い友情で結ばれるようになるのに、そう長い時間は掛からなかった。
なお、孤児院に顔を出したカインがシスター・ハンナに「理解させられた」のはまた別の話である。
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