#13

「久しぶりね」


 ギルドで次の潜行の計画を立てる「ウィンスター教会」の面々の前に、上から下までビシーッとキメたユーフェンが顔を出した。

 無駄にキラキラしてた。


「みんな、元気だったかしら?」

「ユーフェン!」

「お、久しぶりじゃん」

「……へぇ、アレをやりきったのか」

 

 クルツは不敵な笑みを浮かべるユーフェンの様子に驚いたようだ。

 なにせ、どうせ途中で逃げ出すに決まっていると思い込み、この上から目線のハーフエルフのことなどすっかり頭から消去していたからだ。

 これは評価を五段階ほど上げなきゃな――とクルツは関心した。


「ふふん、あたしにかかればこんなもんよ。ま、大したことなかったけどね」

「すごーい!」

「やるじゃん!」


 ユーフェンは新緑色に輝く艶やかな金髪をファサァッと払い、余裕ありげな表情ですまして見せた。

 皆はパチパチと惜しみない拍手を送った。

 クルツは言った。


「……生存訓練も耐え抜いたのか?」

「うぐっ」


 生存訓練、というワードを聞いた瞬間、ユーフェンの顔色は紫色に変化した。


「ま、ままままぁね、よよよ余裕よ、余裕」


 必死に余裕の表情を保っているが、無理をしているのはありありだ。

 ドバドバと滝のように冷や汗が流れ、足はガックガク、体もブレて見えるほどに震えている。


「……ガッタガタじゃねぇか」

「うるさいわね?! 仕方ないでしょ?! 何なのよあれ! 一体何度殺してくれと頼んだことか!!」


 一瞬で余裕を無くし、全身を震わせるユーフェン。


「人間ってこんなに震えられるんだね……」

「こんなに震える人間初めて見た」

「この振動を何かに利用できねぇかな……」

「あ、あんたらねぇ……」


 ウィンスター教会の連中は特に思うところもなかったらしく、平然としている。

 それはそうだ。ここにいる面々は全員、あの生き地獄を生き抜いてきているのだ。

 だから、話にピンときていないのは人工精霊のアイリスだけだった。


「なんの話ー?」

「な、なんでもないわ。メグの母親にちょっと稽古をつけてもらっただけ」

「ふぅん? でもキミ、すごく強くなったねっ!」


 アイリスはピョンと飛び上がるとユーフェンの顔の前で羽ばたきながら、チョンと鼻先を触った。


「きゃっ」

「頑張ったんだねっ!」

「え、あ、ありがとうございます……!」


 思わず敬語になり、涙を滲ませるユーフェン。

 ハーフエルフにとっては、精霊は上位存在というイメージが強く、つい感極まってしまったのだ。

 アイリスはケラケラと笑って「ケイゴなんていらないよっ」などと言って、飛び回りながらユーフェンをなでなでしている。

 どうやら頑張ったことを褒めてくれているらしいが、アイリスはネズミほどのサイズなので、どこかユーモラスだった。


「前に見た時はクソ雑魚だったけど、もうちょっとでグレンたちに追いつけるねっ!」

「……あたし、まだ追いつけてないの?」


 アイリスの心からの賞賛に、ユーフェンはがっくりと項垂れた。

 

 ▽

 

「で、これからどうするんだ? これからもソロで潜るのか?」

「えっ、ユーフェンも一緒に潜ろうよ! 迷宮は楽しいよ!」


 クルツの言葉にマーガレットが声を上げた。

 グレアムはといえば、聞いているのかいないのか、アイリスとイチャイチャしている。


「そうね、もしよかったら一緒に潜ってもいいかしら」

「それはソロとして? それともパーティに入りたいのか?」

「うーん、どうしようかしらね」


 ユーフェンにしてみれば、あの地獄が終わればパーティに入れるつもりでいたが、クルツの言葉を聞く限りはあまり歓迎されている感じではない。

 内心ちょっと残念だったが、自分の態度が元凶なのだろうし、よく考えればそもそもそんな約束はしていない。


「クルツ、ユーフェンが入団するのは反対な感じ?」

「あーいや、そうじゃなくてだな……」

「そうじゃなくて?」

「パーティ名が『ウィンスター教会』だろ? 違う名前にしたほうがよかったかと思ってな」

「なぁんだ、そんなこと」


 ユーフェンは自分が仲間になることに反対なのではないと知って、嬉しくなった。


「あたしもハンナ・ヒギンスの「娘」になったのよ! だから、ウィンスター教会の一員と言っても過言ではないわ!」

「ああ、なるほど?」

「じゃあ、ユーフェンもウィンスター教会の仲間ね!」

「……文句はないかしら? ないわよね……?」

「俺は構わない。おいグレン!」

「なに?」

「アイリスといちゃついてないで、少しは話に入ってこいよ……ユーフェンが仲間になりたいらしい。お前的にはどうだ?」

「いんじゃない? 仲間は多い方が楽しいし」

「アタシもいいよっ! 頑張り屋さんは嫌いじゃないからねっ!」

「決まりだね!」


 マーガレットがポンと手を合わせて笑顔を振りまきながら言った。

 

「ようこそウィンスター教会へ、ユーフェン!」



「で、お前何ができるんだ?」


 リーダーのクルツは、早速ユーフェンの役職について検討し始めた。


「そうねぇ……」


 と、ユーフェンは少し考え込んで、


「一通りなんでもできるけど、これまで一人でやってきたからね。どちらかというと後衛よりも前衛のほうが向いてると思う」

「前衛か……オレとグレンも前衛だから余っちまうな……」

「じゃ、俺後ろに下がろうか?」


 グレアムが手を上げて言った。

 

 グレアムは魔石戦を得意としている。

 ならば、全体を見通せる後衛のほうが自分に向いているのでは、というのは前から思っていたことだった。


「マーガレットは視野が広いし、アイリスも手数が多いじゃん? 二人とも後衛向きだろ。なら俺が殿しんがりを努めればバランスも良くなるかなって」

「なるほど……頼めるか?」

「まかせて」

「アタシもいいよっ! 後ろからアタシの勇姿を見ててねっ!」

「慣れるまでは低層で試行錯誤しないとね」

「じゃあ、早速行ってみるか?」

「いいね!」


 というわけで、五人となり、ようやく一般的な冒険者パーティに最低限必要とされる人数を揃えたウィンスター教会の面々は、久しぶりに低層のダンジョンへ潜ることになった。

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