#29 閑話 恋だとは認めない

※ 本日は二話? 更新します。

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 あたし、一倉ひとくら花菜かなは、どうやら他人から見ると可愛い部類に入るらしい。

 

 自分では、こんな幼稚園児みたいな見た目は好きじゃない。

 お人形さんのようにかわいいなんて言われるけど、あたしは人形じゃないし、人形遊びをするような歳でもない。

 背はいつまで経っても伸びないし、一生懸命食べてもガリガリに細いのもコンプレックスだ。

 むしろ親友のアリサみたいなシュッと背が高くて颯爽としたかっこいい女の子に憧れる。

 

 だからあたしは、見た目であたしのことを好きになる人のことが好きじゃない。

 だいたい、見た目なんてただの生まれつきの特徴じゃないか。

 努力して身につけたものでもない。

 なのに「かわいいから好きです」なんて言われても、はぁそうですかとしか思えないのだ。

 

 その点アリサはすごい。

 小学校に入学して初めて出会った頃、アリサはものすごい大阪弁で、みんなにちょっとだけ怖がられていた。

 一部の男子に「ヤクザ」なんてあだ名をつけられてショックを受けたアリサは、ものすごく頑張って大阪弁をやめて、みんなと同じ口調にして見せた。


 あたしとしては大阪弁のアリサがすごく可愛くて大好きだったんだけど、アリサ自身がからかわれるのが嫌だと言うならしょうがない。

 だからあたしは、アリサの口調が自然になるように協力した。

 アリサはあっという間に大阪弁を撲滅し(あたしとしてはちょっと寂しかったが)、男子にからかわれることもなくなった。

 

 そんな理由もあって、見た目も性格も全く違うあたしたちは親友になった。


 頑張るアリサは本当にすごい。

 いつも元気で、明るくて、勢いがあって、努力している。


 あたしもアリサみたいに頑張りたい。

 そうすればあたしも、ペットか赤ちゃんか人形みたいに「かわいい」なんて言われるんじゃなく、ちゃんとあたしのことを好きになってもらえると思うんだ。


 ▽


「一倉っ! す、す、好きだっ! 付き合ってくれ!」

「ごめんなさい」


 これで今年三回目の告白だ。

 あたしは考えるそぶりも見せずにすぐにごめんなさいした。

 

 誰だろう、この人。

 話したことなんてあったっけ。

 名前は手紙をもらったから知ってるけど、どんな人なのか知らないし、向こうだってあたしのことを何も知らないはずだ。

 第一、まだ小学生だというのに何のつもりなんだろう。


「ごめんね。あたし、好きとか付き合うとかって、よくわかんないの……」


 ショックを受ける男子に逆恨みされないように、ちょっと可愛い子ぶって言った。

 あたしとしても傷つけるの嫌だし、これなら「ああ、まだこの子にはそういう話は早かったんだな」と思ってもらえるだろう。


 まぁ、体は小さくてもあたしも女子なわけで、そこらの男子たちよりはよっぽど「恋」については理解しているわけだけれど。

 

 ▽


「お待たせ、アリサ」


 告白イベントが終わり、教室に戻るとアリサが待っていた。

 ニヤー、と笑ってアリサはからかうように言った。


「モテモテだね、カナ」

「嬉しくないよ……」

「冗談冗談」


 ケラケラと笑って、アリサはあたしのカバンをポンと投げ渡してくる。

 スチャ、とそれを受け取るあたし――曰く、ダンジョンで稼いだ経験値はダンジョン外では無効になるらしいけど、多分それは間違いだ。

 しょっちゅうダンジョンに潜っているうちに、あたしの身体能力は間違いなく伸びている。

 証拠に50メートル走るのに13秒もかかっていたあたしが、軽く走っても十秒を切れるようになった。

 本気で走れば、ヘタをすると記録が出るかもしれない。

 

 アリサもそれに気づいているらしく、変に目立たないようなちょうどいい速度で走っているようだ――ダンジョン探索にこんなデメリットがあるとは思わなかった。


「今日も行くよね」

「もちろん!」


 それでも、ダンジョンに潜ることより楽しいことなんて他にはない。

 心なしか、体だけでなく、頭も良くなったような気もする。


 数時間探索しても数分しか経っていないので、一日が26時間くらいに伸びていることにみんな気づいているのだろうか。


 家に戻ったくらいに眠くなるのが難点だけれど、頭の回転が良くなったのか、宿題や予習が楽になったような気がする。

 

 あと、これは誰にも言ってないことだけど……秘密基地グループの中なら、多分あたしが一番楽しんでいる自信がある。

 

 みんなそれぞれ楽しんではいるけれど、寝ても覚めてもダンジョンのことばかり考えているのは多分あたしくらいだ。

 

 そんなのあたしのキャラクターに合わないから、気づかれないようにしないとね。

 

 ▽


 二人して秘密基地へ向かうと、男子たちは先に到着していた。

 あたしの姿を見つけると、ダイチくんがものすごく嬉しそうな顔で手を振る。

 軽く振りかえすと、デロデロに溶けたような顔になる。

 

 うわぁ、だらしない顔になってる……。


 でも、不思議と嫌な気はしない。

 告白する気もないようだし、それにダイチ君はあたしの見た目だけでなく、いろんな部分をよく知ってくれてるから。

 なにしろ、命の危険もあるモンスター蔓延るダンジョンを一緒に探索しているのだ。もしかすると世界一あたしのことをよく知っている男子かもしれない。

 その上であたしのことを好きだと言ってくれるのだから悪い気はしない。

 

 それに。

 

「なかなか術の発動が速くなってきたな、カナ」


 魔石戦に憧れるあたしは、魔術の発動速度を上げる練習をしている。

 すると、たまに現れるが目ざとくそれに気づき、必ず褒めてくれるのだ。

 上手くいかない時には適切なアドバイスもくれたりする。

 

 だからだろうか。

 正直言うと、あたしはのことが少しだけ気になっている。

 そのせいで、のことまで、ちょっとだけカッコよく見えてしまっている。

 

 いかんいかん。


 あたしには、恋はまだ早い。

 

 ただ……こんなことを言ったらダイチ君にはすごーく申し訳ないし、いけないことだとはわかっているけれど……どうしてもダイチさんと比べてしまうんだよね。

 なにしろ、見た目が全く同じなのに、突然別人になるのだ。

 比べるなと言われても、自分では止めようがない。

 つまり、ダイチ君のことは嫌いじゃないけど――ほんのちょっとだけ物足りないのだ。

 

 だから頑張れダイチ君。

 いつかあたしが君に恋する日が来る前に、もっとカッコよくなってね。

 あたしも負けないように、カッコいい女の子になれるよう頑張るから。

 

 そんなことを思うあたしをチラリと見て、ダイチ君はだらしなく顔を緩ませた。

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