第151話 圧倒的

「おお、やっぱり大きいなぁ」

「この大陸では最大の規模だしね……にしても、本当に転移の魔法って便利だねぇ」


予定時間より少し前に、俺は一度、アクセル義兄様を連れて、転移で帝国の王宮へと移動してしていた。


一度訪れたことのある場所だが、マルクス兄様の結婚の式典を行った場所や、帝国の城下の一部くらいしか回ってないので、こうして俺が直接出向いて、次から定期的にアマリリス義姉様の里帰りが出来そうな場所を探すのも目的ではあった。


どこか、立地が良くて、皇帝にも会いやすい部屋を後で貸して貰うとして……まずは皇帝陛下に会わないとな。


「こっちだよ。着いてきて」


勝手知ったる我が家といった様子で、顔パスで豪華な城を通過していくアクセル義兄様。


勿論一緒に来ている、レインも居ることで、俺や俺の護衛のトールも怪しまれることなく通過できるのは、実に楽であった。


にしても……本当に帝国の城は凄いな。


ダルテシア王国の王城もかなり立派だし、ウチのシンフォニア王国の城も頑張ってはいるが、煌びやかさとか豪華さ、そして圧倒的敷地面積の広さは圧巻の一言である。


この広さは流石に覚えきれる自信がないので、迷子にならないようにアクセル義兄様の跡を着いていくが、それにしても1度来てるとはいえ、俺よりも落ち着いているトールを見ると器の大きさを見せつけられる気になる俺は心が狭いのかもしれないなぁと、地味に思う。


「広いでしょ?僕も子供の頃に迷子になったことがあるけど、これくらい複雑な設計にしないといざって時に困るしね」

「なるほど。アクセル義兄様はこの城の構造は把握してたりするんですか?」

「一通りはね。地図を見て、足で回って2、3回で覚えたけど、僕は跡継ぎじゃないし、この城も広すぎて不便だし早く出たいものだよ」


どこに耳があるか分からないからか、アクセル義兄様はレインのことは口にはしなかったが、レインとの愛の巣が欲しいのだろうと察しはついた。


この人らしいといえば、らしいか。


「そういえば、アマリリスもよく迷ってたっけ。それで、迷子になって泣いてるのをレインと僕で迎えに行くのがお決まりだったね」

「懐かしゅうございますね」

「僕にとっては昨日のことさ。アマリリスは変な所に迷い込むから、城の人間じゃ見つけるのが難しかったしね」


話を聞くと、物凄く良いお兄ちゃんっぽいアクセル義兄様。


俺の周りにはそういう人が多すぎると思うんだよね。


重い家庭事情と亜人という種族の大変さを諸共せず、妹を養い、俺の騎士となったトールなんてその最たるものだけど、マルクス兄様にしても、父様の跡を継ぐために必死で努力しており、その上で仕事を増やす厄介者な俺を弟として可愛がってくれるので、感謝しかない。


ダルテシア王国の王太子で、俺の婚約者のレイナの義理の兄のシュゲルト義兄様も、俺と出会う前の大変なレイナを気にかけてくれており、俺との婚約後はその婚約者の俺の事も実の弟のように接してくるし、本当に兄という存在は凄いと思う。


俺は末っ子だし、下に兄弟とか出来ることはないだろうけど、理想としてはやっぱり彼らのようになりたいものだ。


……トールを理想と呼ぶかは一考の余地があるが、奴もアイリスにとっては良き兄なので、俺の方からグダグダと何かを言う気はない。


うむ、大人になってきたものだよなぁ……まあ、前世から含めたらそうなってて然るべきなのだが、どうやら肉体に精神は引っ張られるようなので、大人になりきれてないのは仕様とも言えたが、言い訳はよそう。


「アクセル殿下、お戻りでしたか」

「ロベルト、父上……皇帝陛下のスケジュールに変更は?」

「ございません。ご予定通り、執務室にて書類をご覧になっておられます」

「分かった。人払いの方も抜かりはないね?」

「はっ!勿論でございます」


途中、高位の文官と思われる人と、そんなやり取りするアクセル義兄様だが、レイン関係を除くと本当にこの人は次期皇帝の器ではありそうだなぁと、痛感されるほどに、人望などが垣間見えた。


本人的には嬉しくないのだろうし、このままさり気なく王家からフェイドアウトして、レインと残りの人生を謳歌するつもりなのだろうが……他の皇子達次第といったところかな?


とはいえ、アクセル義兄様ならレインのために確実に何とかするのだろうが、俺はそれを見守って結婚祝いでも送ることにしよう。


「アクセル義兄様、結婚式は是非とも呼んでくださいね」

「ああ、小さい教会で身内だけでやるつもりだから、エルも婚約者と来てくれると嬉しいよ」


どうやら、既に大まかなスケジュールはアクセル義兄様の中にはあるようだ。


恐らく、かなり先まで未来を見ているのだろうが……本当にそこの知れない人だ。


下手すると老後とか死後まで見てそうで怖いが……何にしても、この人とは敵対しないようにしないとな。


レイン関係で地雷を踏まなければ、恐らく仲良くなれるし、マルクス兄様とも意気投合してたから、心配なさそうだけど……まあ、何にしても気をつけるに越したことはないかな。


そうして、大きな城に圧倒されつつ、アクセル義兄様の案内で帝国の王宮の最奥へと俺たちは足を踏み入れるのであった。




















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