第111話 母様とお風呂

「ふぅ……温まるなぁ……」


湯船に浸かって思わず気持ちよくなってそんなことを呟く。


俺専用の浴室は、ここ最近はあまり利用できてなかったのだが、恐らく母様や姉様達、女性陣の場所となっていたはず。


とはいえ、名義上は俺専用なのでゆったりと浸かる。


肩までお湯に浸かれる贅沢……この上ない至福の時間と言えた。


「次こそは露天風呂だな」


室内しかお風呂がないので、別荘とかで温泉地を確保しておきたいところ。


特に露天風呂は外せないよね。


満点の星空の下での露天風呂も、明るい日の下での露天風呂もどちらも開放感があって捨てがたい。


無論、覗き防止に魔道具とかは設置するけど。


婚約者である、レイナやアイリス、それにセリィが入った時に覗かれないとも限らないし、俺も覗かれて喜ぶ趣味は無いのでそれは必須だ。


幸い、ヤグラグ商会の会長のニッケルとのコネもあって、その手の魔道具も手に入ったので後は温泉地を時間が空いたら向かって、別荘を買えれば完璧かな。


何しても今はこのお風呂を楽しもう。


ぷかぷかと、お湯に身体を委ねてるようで本当に心地よい。


肌にじんわりと馴染むような温かさは、温もりとも呼べるそれであった。


うむ、やはりお風呂は最高だね。


「あら?帰ってたのね」


そんな風にお風呂を堪能していると、裸の母様が浴室に入ってきた。


たまにエンカウントするのだが、気まぐれでかち合うとは……まあ、別にいいけど。


「母様、戻りました」

「ええ、お帰りなさい。それにしても、一人で帰ってきたの?」

「お忍びですよ」

「ふふ、人気者は辛いわね」


使用人さんに身体を流してもらうと、湯船に入ってくる母様。


隣に座るが、相変わらずスタイル抜群で美人さんだねぇ。


「さっきフレデリカとすれ違った時に、偉くご機嫌だったから、もしかしたらと思ったけど、やっぱり帰ってて予想通りだったわ」

「そんなに喜んでました?」

「ええ、やっぱり可愛い弟との再会は嬉しいのでしょうね」


割と頻繁に帰ってきてはいるが……稽古自体は久しぶりだったし、そうなのかもしれない。


「レイナさん達はお元気かしら?」

「ええ、勿論」

「そう、まさかレフィーアの次に婚約が決まったのがエルとは予想外だったけど、良い娘をお嫁さんに出来そうね」


母様にもレイナは紹介してるが、アイリス同様すぐに気に入られていた。


まあ、その辺は流石だよね。


「エル」


そんな風に納得していると、優しげな声で俺の頭を撫でる母様。


「よく頑張ったわね」


……それは狡いなぁ。


褒められ慣れてないから、そんな風に頑張りを褒められると少し照れくさくなる。


父様とかマルクス兄様から、ダルテシアでのあれこれを聞いたのだろうが、それにしたって、このタイミングで褒めるのはちょっとね。


他には使用人さんしか居ないし、婚約者が居るのに母親に甘えてるのは少し恥ずかしくもあるが……何と言うか、前世では味わえなかったこの気持ちは嬉しくもあった。


「……うん、ありがとう」


そう返事をすると微笑む母様。


母親って凄いなぁと、素直に思う。


子供のことを、色々分かっていて、それでちゃんと褒めるべきところと叱るべきところを分かっている……俺はこんな立派な親になるのだろうか?


レイナやアイリス、セリィは良い母親になれそうだけど、俺は父様みたいな尊敬できる父親になる自信はあまり無かった。


それでも、やっぱり我が子には幸せになって欲しい。


少なくとも……前世の俺のような気持ちにはさせたかないかな。


「母様、父様との話を聞かせて」

「珍しいわね。良いわよ」


そうして、俺は父様と母様の甘い話を聞かされるが……俺の想像の何倍も甘ったるくて胃もたれしそうになるが、それでも両親の話は互いが互いを想っていて凄く良かったと思う。


俺はレイナやアイリス達に、こんな風に話してもらようように出来るだろうか?


同じは無理でも、少なくとも好きな人は幸せにしたいものだ。


母様が、父様のことを幸せそうに語るように、俺も心から想われるようなカッコイイ男になりたい。


前世から考えると随分と我儘になったものだ。


水が飲みたい、お風呂に入りたい、運動して汗をかきたい……誰かに愛されたい。


最後の些細な願いよりも、前者が叶って嬉したかったが、俺を転生させてくれた神様は後者もくれたようだ。


あまり期待してなかったことなのだが……やっぱり誰かに愛されるのは嬉しいことだと思えた。


その分自分もその相手を愛おしくなるし、時にそれがマイナスになっても、やはり人は人を愛するのだろう。


まあ、別に俺は人間という種族自体が好きな訳ではないけど。


優しい人達のいる今世は、悪くないと思う。


そんな風にお風呂で長話を母様とするが、やっぱり女性陣が俺との長湯を一番してくれる気がする。


父様や兄様、トールやバルバンもそこまでお風呂好きという訳では無いし。


やっぱり、今度は婚約者と混浴したいものだ。


色んな意味で結婚後になりそうだが、それまでに温泉地に別荘を作って露天風呂を楽しめるようにしないと。


他にも前世で良さそうだったものは作りたい。


サウナとか、檜風呂とか、泡風呂とか、色々楽しみだ。


うむ、頑張ろう。












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