第93話 ヒャッハーとモヒカン
俺の予想通り、隠し通路はとある場所へと繋がっていた。
「テメェ!どこから入ってきた!」
「おうおう、坊ちゃんよう、怪我したくなきゃ大人しくてな」
「げへへ、見てくれはいいし、食べ応えはありそうだなぁ……じゅるり」
……そう、ヒャッハーな世紀末っぽい人達の元に。
今時珍しいというか、何故か全員がモヒカンの世紀末っぽい人達しか居ない謎の場所。
いつから俺は少年漫画の世界へと転生したのだろうか……
「トール、美味しそうだってさ」
「いえ、殿下のことでしょう」
「いやいや、お前だろ」
「いえいえ、殿下です」
どう考えても、最後の男色っぽいのはうさ耳美少年に向けられたものだと断言できる。
間違いないよ。
俺ですか?
男には興味無いかなぁ……
「ごちゃごちゃ行ってないでおとなし――ぐぼっ!」
「やろ――がはっ!」
「げへへ……げへへ……」
気がつくと、一瞬で20人くらいの男をのしたトール。
凄いな、また強くなってる。
本当に真剣に寝首をかかれそうだけど、今度から寝る時は気をつけよう。
「しかし……この程度の相手しか居ないとなると……」
「うん、まあ、ハズレだろうね」
トールからしたら全員雑魚みたいな実力しか持ってないのだろうが、それでも普通の基準から照らし合わせても、この程度の連中しか持ってない組織なわけが無い。
つまり、この隠し通路もハズレだったと見るべきだろう。
まあ、それ事態はそこまで不思議ではないことだけど。
「とりあえず、繋がってる所は全部探して隠し通路は見つけておこうか」
元々、この隠し通路の存在を予期してた時から本拠地へと繋がってるとは思ってなかった。
俺が知りたかったのは、下っ端の実力とこの隠し通路がどこまで広がってるのかの確認だ。
上と下で完全に組織として別れているのだろうし、まずは手足を奪っていくに限る。
頭を無くさない限り確かに無くなりはしないが……そちらに関しても目星がついてはいるので、心配なかったりする。
「おうおう、なんだこりゃ!」
そうして、室内の全員をトールが縛り終わる頃に異変に気づいた他のメンバーが駆けつけてくる。
「トール、やっておしまい」
「了解」
その言葉でまた来た増援も一瞬で無力化されて、見事に縛り上げる。
それらを繰り返すことしばらく。
「……殿下、ここ人多くないですか?」
「だねぇ」
チラッと見ると、室内にはびっちりと並べられた縛られた男たちのオブジェ。
非常に美しくない光景だが、念の為に深めに睡眠魔法もかけたので、一日は起きないだろう。
「はぁ……対人は力の加減が難しいですね」
床とか壁にヒビが入ってるのに手加減とはこれいかに?
深く考えては負けかな。
「何にしても、アイリスとレイナが恋しい……」
ムサイ男ばかりで流石に気が滅入ってくる。
ヒャッハーなモヒカンの敵さんは、間違いなく『狂犬』の下っ端のメンバーなのだが、モヒカンが彼らのトレンドマークならもっと目立ってそうなのでこの髪型はコイツらだけなのだろう。
この目立つ容姿の奴らの地下の戦力として置いておいて、上には普通のメンバーとかかな?
いずれにしても、面倒そうだがまあ、仕方ない。
「殿下は本当に女の子が好きですね」
「トールは嫌い?」
「そうじゃないですけど……怖いなぁと」
まあ、イケメンからしたら自分を狙う肉食系は苦手なのだろう。
クレアが特別なだけで、大概のその手のアプローチは本当に嫌がるからな。
「それで、これからどうするのですか?」
「うん、もう少し調べたら今度は上に戻ろうか」
幸いなことに、殆どの隠し通路はバルバンが潰した拠点に繋がってるらしく、未発見の場所はそんなに多くなかった。
そのいくつかは外……というか、王都側にも通じていたが、そちらも独自のコネで潰していた場所が多かったらしいので、手間もなかった。
なお、隠し通路の行く先々でヒャッハーのモヒカンばかりを発見したが……地下だけ世紀末を迎えてる今世らしい。
というか、あの髪型って頭重くないのかな?
便利そうなは試してみたいが……セットが大変そうだ。
リーゼントとかアフロとかと同種の気配がするよ。
トールは……うさ耳には似合わない髪型だし論外か。
俺も似合いそうにないな。
それに、白髪のモヒカンって見たことないけど……うん、需要はなさそうだ。
まあ、せっかく、面白い髪色に生まれたしこのまま普通にしておくのがいいか。
そんな感じでトールがモヒカン達を縛り上げるのを眺めつつ、屋台で買っておいたオレンジジュースを一口。
うむ、果物系のジュースは外れがなくていいね。
ただ、万能なのはやはり水だが……水はひと仕事終わってからか、まったりするときと決めてるのでもう少しお預けだ。
どちらにせよ、俺が動く仕事はそんなにないし、もう少し頑張ったら後は適任者に任せるとしよう。
ここは、婚約者の国ではあるが、まだ爵位も貰ってないので他国だし、その辺の配慮もしないと。
まっこと貴族とは面倒だが、まあ、なんちゃって王子でも、一応王子だしね。
うむ、頑張るとしよう。
つんつん気絶しているとモヒカンを木の枝でつつくと虫が出てきてびっくりする。
……うん、俺はこの髪型はよそう。
まあ、本来虫が入り込むか不明だが、このモヒカンさんは縦のラインが太かったからだろうなぁ。
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