第92話 捜査
「殿下、本当に関わるのですか?」
バルバンの居た民家から出ると、そんなことを尋ねてくるトール。
危険だと言いたいのだろう。
「なになに、心配してくれるの?」
「いえ、面倒そうで嫌だなと」
「薄情者め」
妹の清らかさをもう少し持っててもバチは当たらないと思うんだ。
「それより、バルバンはどうだった?」
「強いでしょうね。まあ、負ける気はないですが」
「ならよし」
クレアとの追いかけっこで益々人外への道を進むことになったトールだから、心配はしてなかったが、そのトールから見ても強者だと思われるバルバンはやはり使えそうだ。
「というか、思ってたよりずっと面倒そうですよ。本当にやるんですか?」
「まあ、無視もできないでしょ」
当初の想像よりも大規模な組織だったが、幸いにして探す手段もあるのでさっさと終わらせるに限る。
まず、向かうのは資料にあった、スラム街にある既にバルバンが潰した拠点だ。
一番最初に発見されたそこは、一見するとただのボロ屋だが、地下があって、そこが取引場所に使われていたようだ。
下っ端連中は、バルバンが拠点を潰すときに拷問して皆殺したらしいので、聞くに聞けなかった。
まあ、捕虜とか人質としての価値は皆無だし分からなくはないが、総合するとかなりの数の構成員を1人で蹴散らしてるその実力は本物だろう。
「殿下、ここには何もないのでは?」
ボロ屋の地下室に降りると本当に何も無くて、昔の血痕が残ってるくらいなので首を傾げるトール。
「いや、多分どこかに……お、あったあった」
壁を探していると、明らかに変な気配のする場所を見つける。
叩いた音は他の場所と違わないけど、やはり何かしらギミックがあると見て間違いなさそうだ。
バルバンも気づいていたかもしれないが、最初に見つけたこの拠点だけ、スラム街の中心に近く、人身売買の移送をするのには目立ってしまう場所だったが、何故かここが一番取引先として使われていた。
そもそも、バルバンが動くようなったのも、スラムの住人……特に女性や子供を攫う案件が増えたために動くようになったのだが、その被害者の殆どが忽然と姿を消していたのだ。
ケイトの話よりもその数は多くて、やはりスラムの住人を狙った犯行も多かったのだと分かったが、問題はこの目立つ中心地でどうやって人攫いをしたのか。
他の場所は隅の方で、人気の少ない場所なのに対して、唯一目立つ中心地にあるこの場所からの移送。
もしやと思ってみたが……やっぱり隠し扉があるのだろう。
「あ……」
俺の真似をして、ノックで壁の音を確かめようとしたトールだったが、物凄い音と共に壁が削れて小さいクレーターが出来ていた。
……いやいや、トールさん。
どんな力の込め方してるの?
「でも、まあいいか。トール、この辺の壁壊せる?」
「壊せますが……いいんですか?」
「うん、よろしく」
そう言うと、トールは剣を使わずに素手で壁に手のひらを触れると、少し押し出すように力を込める。
ドォン!
……一体何をどうしたら素手でこんな音が出せるのやら、壁は砕かれてそこには大きなクレーターが出来ていた。
「……崩れなくて良かったよ」
この威力だと地下が崩落してても不思議じゃなかったので少しホッとする。
「それより、何もないですが……」
「いや、通路があるよ」
首を傾げるトールに手を振ると俺は壁に向かって歩き出す。
すると、徐々に壁が近づいて止まる……と思いきや、そのまま壁をすり抜けるようにその奥の通路へと入れた。
「あれ?殿下、これって……」
「魔法での幻覚だね。二重の対策をしてた訳だ」
この幻覚魔法の恐ろしいところは、壁が壊されてからのクレーターとかの再現だけでなく、魔力が低いと本物にしか見えなくなる点にもある。
しかも、魔法によるギミックなので、見破れる人は限られる。
さっき会った時に分かったが、バルバンはそこまで魔法が得意ではないどころか、逆に苦手な部類だろうし、この手のトラップには気が付かないのだろう。
「お、通れました」
トールも身体強化を纏って、通過することが出来た。
しかし、これだけ幻覚魔法のギミックとは、相手も中々やるものだ。
「しかし、全く分かりませんでしたよ。相変わらず殿下は変態的に魔法に詳しいですね」
「だろ?崇めてもいいんだぜ」
「いや、崇められても嬉しくないですよね」
まあね。
トールに崇められても、何かの呪いとしか思えなさそうだ。
崇められるなら、巫女さんとかシスターがいいなぁ……神聖な服のはずなのに何故か魅力的に映るのは、やはり神に見せても恥ずかしくない服装だからだろうか?
そういえば、あんまり教会は行ったことないけど……まあ、実際にリアルなシスターとか見たさだけに行くのも不純だし、何よりそこまで敬虔な信徒ではないので、少しお祈りするだけで許して欲しい。
神様には感謝しているから、今度教会に一度行ってみるか……でも、なんか俺の会った神様と祀ってる神様の像が似ても似つかないように見えたのは気のせいだろうか?
うーん、その辺はまた調べてみよう。
そんなことを思いつつ俺とトールは隠し通路へと進むのであった。
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