第84話 下見

「おお……なんか思ったより大きいなぁ……」


話も終わったので、早速屋敷の手続きをしてもらい、本日から完全に俺の家となったアストレア公爵家の隣の大きな屋敷。


まあ、アストレア公爵家自体が広いので、隣でもそこそこ距離はあるが……こちらも敷地面積がかなり広くて、迷いそうであった。


「とりあえず、改装工事をして、住めるようにして……人も雇わないとな」

「というか、本当にこんな家貰ったんですか?」


呆れているのは、俺の護衛であるトールだ。


先程の話し合いにも居たが、改めて屋敷を見て顔が引き攣っていた。


「まあ、流石にずっとアストレア公爵家に居るわけにもいかないし、屋敷は必要なのさ」

「それは、分かりますが……」


ジーク義兄様やレフィーア姉様は気にしないだろうけど、マジで爵位を貰うらしいし、持ち家はないと困る。


とはいえ、個人的には屋敷でなくて普通の民家でもいい気もするが……貴族的にはこれくらいの家があった方がいいのだろう。


「トールくんや、守りの面で見てどう思う?」

「アストレア公爵家の近くで、場所的には悪くないかと」

「隣は要塞みたいだし、それもそうか」


屋敷の大きさもさることながら、人手においても不足のない歴史ある公爵家が隣なので何かあってもすぐに対応できそうと読んだらしい。


「うーむ、しかし肝心の人手がなぁ……」

「グリスさんやメルさんはどうです?」

「引き受けて貰えたら嬉しいけど……流石に難しいように思えるなぁ」


今回の旅において、俺の護衛を主にしてくれていた騎士のグリスは、俺のお世話係である妻のメルの懐妊でお留守番をしている。


信頼出来る2人だし、出来ればこういう時に頼りたいが、2人の真の雇い主はあくまで父様……というか、シンフォニア国だし、無理には引き抜けない。


ダメ元でも頼んでみるか……


「にしても、神子でしたか……」

「お?なになに、崇める気になった感じ?」

「いえ、少しも崇拝出来ませんが、殿下って地味に凄かったんですね」


褒められてるのだろうか?


ツンデレだなぁ……全くそれを俺に見せてないで、さっさとクレアにデレればいいのに。


「とはいえ、確定じゃないしそれはあんまり人前では言わないようにね」

「ええ、分かってますよ」

「言ったら、主君命令でトールとクレアを同室にします」

「……それ、職権乱用では?」


前世だとパワハラかもね。


しかし、この世界にそんな単語は無いので無論スルー。


それに、互いに憎からず想いあってる男女の仲を取り持つ俺はある意味では恋のキューピットと言えなくもない。


もし万が一、何かあっても、子供の俺にはそれは理解できないだろう。


そう、これは可愛い子供のイタズラなのだよ。


「殿下の場合、子供には見えませんがね。というか、年齢偽ってません?」


そんなことをしれっと言ってくるトール。


失礼なヤツめ。


まあ、精神年齢では確かにそこそこだが、精神というのは肉体に引っ張られるらしいし、俺もれっきとした子供だからね?


「ん?」


そんなことを思っていると、ふと感知魔法に反応が出る。


無人のはずの屋敷の方からだ。


トールも気づいたのか、腰の剣に手を当てながら、俺を守るように1歩前に踏み出す。


「ふむ……変だな」

「ええ、変ですね」


急に現れたように思えるその存在。


先程まで全く反応が無かったのに突然現れたその反応は何だか人ではないように思えた。


トールの方も、その違和感に眉をひそめている。


「どうします?」

「確認だけしておくか」

「了解です」


変なのが住み着いてても困るし、俺とトールは警戒しながら近づいていく。


反応があったのは、屋敷内……ではなく、屋敷の裏手側からだった。


距離があるので、俺は魔法、トールは持ち前の身体能力で静かに、しかし素早くそちらに向かう。


裏手には、大きな木があったが、枯れていのか葉は咲いて居なかった。


そんな、木の傍に人が一人……その人物こそ、感知魔法に引っかかった人であろうが、その姿を見て驚く。


緑色のショートカットの美しい女性であったが、その姿はまるで霞でもかかってるように、どこか儚く半透明な様子であった。


しかし、驚いたのはそこではない。


その女性がそっと枯れ木に触れると、途端に綺麗に葉を咲かせて美しい緑が生まれる。


俺のオリジナルの植物魔法でも不可能なことであった。


植物魔法では本当の意味で命を吹き込むことはできないからだ。


だが、目の前の女性は魔法とか少し違う力でそれを成したように思えた。


一体彼女は……


「あら?珍しいお客さんですね」


気づいたように、こちらに振り向くと笑みを浮かべる女性。


まさかとは思うが……


「お姉さん、もしかしてだけど……精霊さんだったりする?」

「よくご存知ですね。ええ、そうですよ。リーファと申します。貴方のお名前を伺っても?」

「エルダート・シンフォニア、エルって呼んでください」

「そうですか、よろしくお願いしますね、エルさん」


そう微笑む美人さん……リーファと名乗るその人は、この世界でも稀な精霊という存在であると、この時理解するのであった。







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