第80話 演劇
「おお、いい席だ」
ショッピングの前に、公演時間が近かったこともあり、俺たちは演劇を見に来ていた。
ダルテシア王国の国王陛下が付けてくた騎士さん達が予約したのか、貴族用のプライベート席の個室へと案内されると、全体を見回せるかなり良い席であった。
というか、普通は当日予約ではそんな席は取れないのだが……その辺は、娘のために父親が頑張った結果なのだろう。
「ふぅ……少し、落ち着きました」
初めての外出で、しかも車椅子という未知の乗り物とその可愛らしい容姿によって、視線が集まっていたレイナ。
当然ながら、そんな視線に慣れてるわけもなかったらしく、それらが無くなって安心していた。
「まあ、レイナもアイリスも可愛いから目立つしね。徐々にその視線には慣れるしかないかな」
「そ、そうですか……?」
俺の言葉に照れる婚約者2人。
なんか、めっちゃ和むなぁ……
「まあ、本音でいえば2人を独占したいけどね」
そう付け足すと更に照れてしまう。
なんというか、不本意ながらいつもトールにグイグイ行くクレアの気持ちが分かってしまうなぁ。
そのクレアは俺の複雑な視線に気づいたように親指を上げてサムズアップしていたが……いや、そんな同士みたいな扱いはやめてくれ。
そうこうしてる間に、劇が始まる。
流石というか、役者の演技の実力は軒並み高く、見目麗しい美形たちによる演技は見てて華があった。
内容的には、シンデレラのような感じのストーリーかな?
まあ、無論、アレンジというか所々で設定は違うけど、大まかなストーリーラインはそれに近いと思った。
「エル様、皆さん声綺麗ですね」
「役者さんだしね」
声優さんみたいな特化型ではないけど、やはり声も演技には含まれるので、皆が上手いものだ。
「義理の家族……こういう人達もいるんですね……」
そして、レイナの方は内容に関して少しビックリしていた。
「まあ、フィクションだけど、こういう家庭もなくはないかな」
貴族世界だと特に、あまり俺は見かけないが、ダルテシアでも普通にあるらしいし。
「そうなんですね……私は、お母様が早くに亡くなってから、お義母様方やお姉様、お兄様方には良くして貰っていたので、知りませんでした……」
来る前に出会った、王妃様のレティシア様。
レイナの義母である彼女を初めて、ほとんどの家族はレイナに対して好意的なようだ。
もっとも、熱湯で火傷を負わせて目を見えなくした王子は別だろうが……それは過去のことだし、わざわざ掘り返す必要もないだろう。
「素敵な家族に恵まれてるよね」
「はい」
どこか誇らしそうにそう頷くレイナ。
「家族……」
反対に、少し寂しそうなアイリス。
彼女も母親を亡くしているので、思い出すとしんみりするのだろう。
そんな彼女の手を俺はさりげなく握ると微笑んで言った。
「今は、俺もレイナもトールもクレアも居るよ。だから……ずっと側にいてね」
「……!はい!」
何ともいい笑顔だ。
うん、やっぱり笑顔が素敵な子はいいね。
「……そうですね。私もずっと一緒に居たいです」
そんなことを思っていると、少し妬いたようにレイナが俺の手を握る。
「勿論だよ。2人ともずっと俺の側に居てね」
そう微笑むと機嫌を直すレイナ。
「ダーリン。私に甘えても大丈夫だよ?」
「いや、遠慮しておく……」
後ろでも、好機と見たのかクレアが攻めていた。
クレアにはまだ、トールの隠していることに関しては知らないはずだが……まあ、それは俺から言うことではないかな。
アイリスに言うかも悩みどころだが、その辺は時期を見て。
それに、トールの心の傷を治すのは俺の役目ではない。
そういうのは、本当に好きな人にこそ受け入れて貰うべきだろう。
俺は、あくまでそれをサポートするのみ。
トールは俺の騎士で、友人だしね。
そうして、和やかに話しつつも演劇を見ていたが……プライベートルームなだけあって、どれだけ騒がしくても周りには迷惑はかからない。
まあ、俺達はそこまで大きな声では話してないが、俺以外は容姿だけでなく声まで綺麗なので不思議と響くのだろう。
特に、アイリスとレイナの声は愛らしい。
耳元で囁かれたら良く眠れそうだ。
なお、アイリスの方は何回かの添い寝でその効果は実証済み。
レイナの方はまだだが……よく眠れそうな気がするので今度是非試してみたいものだ。
やがて、物語はハッピーエンドを迎えて終了する。
確か、他にもいくつもの脚本が上映されてて、ハッピーエンドはこれを含めても3つほどらしい。
残りはバッドエンドがメインらしいが、俺はそこまで悲恋とか悲劇は好きではないので、このくらいで丁度いいだろう。
アイリスやレイナに関しても、この子達は辛いものを見すぎてるし、今後は幸せなものを沢山見せてあげたいものだ。
少なくとも、この劇を見終わっての感想が2人とも良かったと言っていた時点で、少しはその役目を全うできたのではないかと思われる。
俺が今世で、家族に愛されたように、今度は俺が2人と……この先出来るであろう子供を愛せたらいいなぁと思う。
そんな幸せな家庭を築いて、子供に爵位を譲って、隠居生活……うん、悪くない。
そんな感じで、たまには演劇も良いと思いました。
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