第67話 義兄の頼もしさ

「流石に大きいですね……」

「まあ、歴史のある国だしね」


朝食を終えて、少しのんびりとした時間を過ごしてから、俺達はダルテシア王国の王城へと向かっていた。


遠くからでもかなり大きく思えたが、近づくとますますの大きさに思わず呟くと、一緒の馬車に乗っているジーク義兄様が微笑ましそうに答える。


「しかし、昨日は助かったよ。何分、シンフォニア王国との連絡は中々時間と手間が掛かるから、義父上達に直接会えるのは本当に有り難かった」

「いえ、お役に立てて何よりです」


俺の片道の旅だけで、今後は両国を割とあっさりと行き来できるとなれば、これから便利に使われそうではあるが……幸いというか、たまに頼まれる程度なら俺もそんなに負担ではないし、出掛けるついで程度なら優しい家族のために喜んで運び屋になる所存ではある。


まあ、本気で使い潰されそうなら逃げるが……ウチの家族も、ジーク義兄様もそんな人ではないので大丈夫だろう。


「何かお礼がしたいけど……欲しいものとかあるかな?」

「うーん、じゃあ、フリードの誕生日会には招待して貰いたいです」

「それは、お礼になってないよ」


俺の返事に苦笑するジーク義兄様。


そうかな?割と妥当だと思ったんだけど……


「まあ、でも、エルはその歳でお金も沢山稼いでるそうだし、そこまで欲しいものもないか」


どうやら、カレーやらなんやらで色々と前世の知識での産物で稼いでることを知ってるようでそう納得するジーク義兄様。


父様とかマルクス兄様辺りに聞いたのかな?


「んー、強いていえば、海産物が食べたいくらいですかね?」

「ああ、だったら、海鮮料理の美味しい店を今度案内するよ」

「本当ですか?ありがとうございます」


そういえば、このダルテシア王国はそこそこ海に近いので、少し質は落ちても食べれる店があるのか。


でも、採れたても食べてみたいし、観光が終わってシンフォニア王国に帰る前にでも寄ってみようかな。


魔法で飛んでいけばそんなに時間もかからなそうだし。


馬車旅をしたい気もするが……まあ、流石にそこは自重して自力で転移先だけ登録しておけば、後はいつでも来て好きに回れるだろうし、そうしよう。


「しかし、魔法に財力に新しい発想での開発……あと、小説なんかも書いてるって聞いたけど」

「リリアンヌ姉様が読んでくれるので、趣味程度に」

「そうなのかい?なんか、リリアンヌに薦められて読んだらしいレフィーアが絶賛してたけど……それは売らないのかな?」

「それは趣味なので、今のところはその予定はないですね」


というか、リリアンヌ姉様のために書いてただけなので、あまり広めて仕事にはしたくないかなぁと、思ってたりする。


「何にしても、これだけ多彩な義弟とは鼻が高いよ。でも、魔法以外のことも知ったら、ウチの国の国王陛下が本気で欲しがりそうでもあるね」

「そうなんですか?」

「まあね。ただでさえ、空間魔法なんて特殊な魔法が使えるんだ。どの国からしてもやっぱりそういう魔法使いというのは確保しておきたいものなんだよ」


まあ、それもそうか。


他人事のように思えるが、空間魔法が貴重らしいというのは、この6年ちょいの人生で何となく分かってはいたし。


「案外、繋がりの確保のために、国王陛下から娘である王女様を紹介されるかもね。あとは、この事を知った他の貴族からの婿入りの要望とか」

「それは大変そうですね……」

「まあ、エルは他国の第2王子だし、向こうも権力での強制は出来ないから、そこはまだ安心していいかもね」


確かに、これが平民だったり、爵位の低い貴族の子供なら、国王陛下の命令での婚約も有り得なくなかった。


なるほど、その点でいえば、第2王子という肩書きも悪くないな。


まあ、第2王子というブランドがついてしまうというリスクもあるが……そこは、それはそれと流すしかないか。


それにしても、周りにイケメンばかりで、モテないと思っていた俺だが、どうやら汚い大人にはモテる要素が満載らしい。


……なんだろう、全く嬉しくない。


どうせなら、マルクス兄様やトールみたいに普通にモテたかった……まあ、無理だろうけど。


やっぱり俺は付加価値でしかモテ要素を確保できそうにないらしい。


生粋のイケメンが羨ましいよ。


「無難に挨拶をして、あとはゆっくり観光がしたいものです」

「そうなるよう、私も義父上もなるべくフォローするよ」


任せろといわんばかりに、微笑むジーク義兄様。


なるほど、これが本物のイケメンの安心感か。


ちなみに、父様とマルクス兄様は俺が形式的にダルテシア王国の国王陛下に挨拶をしてから、別室で密談する時に連れてくることになっている。


既に何かを察してるかもしれないこの国の貴族達に俺の空間魔法自体を隠す意図もあるのか、秘密裏に会うことになっているが……まあ、バレても距離が距離だし、ジーク義兄様は最古参で名門の公爵家の当主だから何とかしてくれるだろう。


本当に今世は頼れる人が多くて、エルダート嬉しい。


……うん、キャラじゃないよね。分かってる。


そんな感じで、ジーク義兄様の頼もしさを実感しながら俺達の馬車は王城の敷地へと入るのであった。










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