第63話 久しぶりのシンフォニア

少しゆっくりとレフィーア姉様とお茶をしてから、俺は空間魔法の転移を使って、シンフォニア王国に戻っていた。


ここ最近は比較的、落ち着いていた気温の環境に居たせいか、焼けるような暑さの砂漠がどこか懐かしい。


「ただいま」


まず真っ先に言うべき相手……オアシスに俺はそう声をかける。


しばらく見てない間も変わらずここで、皆を支えてきたのだ、感謝の言葉も、感動の再会もあるが今はその一言だけで済ませる。


城内を歩いていると、俺を見て驚いている使用人さん達だが、転移で帰ってきたのだろうと納得して何人かが父様に報告に向かったようだ。


「あれ?エル、帰ってたの?」


休憩中なのか、廊下でマルクス兄様にバッタリと出くわす。


相変わらず、イケメン具合に陰りはないが、どこかお疲れ気味に見えるのはいつもの事かな?


「ただいま戻りました、マルクス兄様」

「お帰り、エル。もしかしてもうダルテシア王国に着いたの?」

「ええ、早速レフィーア姉様達にも会ってきました。それで、今から父様達を連れていこうかと思ったんですけど……今くらいの時間なら大丈夫かなと思いまして」


そう説明すると、納得と同時に驚きも表情に表すマルクス兄様。


「そっか、ダルテシア王国までは僕も父上と一緒に行ったことがあるけど……こんなに早く戻ってこれるとは思わなかったよ」


片道だけでももう少しかかるとよんでたらしい。


まあ、魔法でズルをしたので早まったのだが、熊狩りやら何やらで色々寄り道もしたので最速とはいう訳ではなかった。


そんな、普段しない寄り道も旅の醍醐味だろう。


「にしても、エルが帰ってきてくれて良かったよ」

「ん?何かあったんですか?」

「いやー、フレデリカがエルが居ない間寂しがっててねぇ……悪いけど、後で稽古にでも付き合ってあげてくれるかな?」

「なるほど、分かりました」


確かに、ここ半月ほどフレデリカ姉様の剣の稽古は休んでいたので、俺もそろそろ体を動かしたかったところだ。


熊狩りやら、猪狩り、魔物狩り、野宿のための家作りと、魔法の使用頻度はかなり高かったが、今ひとつ運動はした気にならなかったのでいい気分転換にもなるだろう。


ちなみに、トールは俺とは逆で熊狩りやらクレアに出会ってからはその対処で動きまくっていて、多分前より強くなってると思われる。


そのトールはアイリスとクレアと共に向こうでレフィーア姉様の相手をしている。


トールが物凄く連れてって欲しそうにしていたが……レフィーア姉様としては、最近の俺の事を知ってる人を手放さないだろうから置いてきた。


トール的には、きっと、クレアと離れて少し落ち着きたかったのだろうが……もう少し頑張れとしか俺には言えなかった。


「ちなみに、フレデリカ姉様はどちらに?」

「ああ、それならそろそろ……」


と、マルクス兄様が言いかけたところ、カランという音が背後から聞こえてきた。


振り返ると、そこには剣を落として俺を見るフレデリカ姉様の姿があった。


「あ、姉様、ただいまもど――」

「――エル!」


消えたと思ったら、いつの間にか俺に抱きついていたフレデリカ姉様。


おかしい……トールやクレアよりも明らかに速かった。


気づいたら抱きつかれていた……この半月で更に強くなった姉らしいが、今は弟の俺を嬉しそうに抱きしめていた。


なんか、少し照れくさい。


「帰ってきたのね!なら、早速稽古しましょう!」


遊び相手が戻ってきたように、上機嫌に告げるフレデリカ姉様。


歳の近い俺が一番遊び相手として傍に居たことの証明かもだが、悪くはなかった。


「ええ、ただ、その前に父様と母様、あとリリアンヌ姉様も連れて、ダルテシア王国に行きましょう。レフィーア姉様が待ってます」

「そうなの?なら、準備してくる!」


風のように去っていくフレデリカ姉様。


あまりの速さにびっくりするが……なるほど、俺の居ない間は、俺との稽古の時間が騎士団長との稽古に置き換わってたとマルクス兄様から聞かされたら納得した。


いつも、俺を扱いてくれる時間をガチな訓練にあてたら、そりゃ益々強くなるよねぇ。


「マルクス兄様、向こうはこちらと気温が違いますので、そこだけご注意を」

「ああ、そうだね。気をつけるよ」


フレデリカ姉様と俺のやり取り微笑ましげに見守っていたマルクス兄様にそう声をかけておく。


マルクス兄様とリリアンヌ姉様はそこまで体が強くないし、気温とか環境の違いで体調を崩さないように、俺が魔法でサポートしないと。


フレデリカ姉様はそこまで心配してないが……不思議と父様と母様もそこまで心配にならないから不思議だ。


あの二人はあの二人で、どこか格が違うような感じがするからだろうか?


そんなことを思いながら、父様と母様、読書中のリリアンヌ姉様にも声をかけて、俺は家族全員を連れてダルテシア王国へと転移で戻るのであった。


ちなみに、残ってもらった俺の専属メイドのメルも元気そうで良かった。


今は体調が良くないらしいので、レフィーア姉様に会わせるのはもうしばらくお預けかな?


レフィーア姉様が、こっちに一度戻りたいといえば会えそうだけど……向こうも子供が出来たばかりだし、遠出は少しねぇ。


なので、その機会は俺が作ろうと密かに決めるのであった。








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