第53話 少し観光

「うーん、やっぱり都会は凄いなぁ……これで、王都とか行ったらガチで迷いそう」


早速、街へと繰り出すが、屋敷から離れると中々に活気があって、人も多い。


王都に近い比較的人の多い領地という点を踏まえても、中々に多く感じるのだが、そんな感覚になるのは俺が田舎者だからだろうか。


「父様やマルクス兄様じゃ、気軽に出歩けなさそうだなぁ……」

「殿下とは別の意味で目立ちますからね」

「何が言いたいのかね?トールくん」

「いえ、特に含みはありせんが……」


まあ、確かに黒髪褐色のイケメンが闊歩するのと、白髪白肌の子供がチョロチョロするのとではかなり意味合いが違うか。


前者は物凄く、女性受けが良さそうな感じで、後者はさながら珍獣でも見たような感じ。


「誰が珍獣か!」

「いえ、何です急に?」

「すまんすまん、トールがあまりにも失礼なこと言うから……」


うん、そんな「こいつ、大丈夫か?」みたいな目で見ないでくれる?


「にしても、はぐれると面倒そうだな……アイリス」

「はい、何ですか?」


真っ先に迷子になりそうな、キョロキョロと、物珍しげに周囲を見ているアイリスを呼び寄せると俺は自然に手を繋いでみる。


「ふぇ!?え、エル様……?」

「迷子になると困るしね。ダメかな?」

「いえ!その……大丈夫です……」


少し恥ずかしげだが、受け入れたように頷くアイリス。


これは断じてセクハラではない。


そう、合意の上なのでそれは間違えないように。


しかし、男女平等という観点から、ここは念の為アイリスの兄上にも聞くとしよう。


「トールもどう?」

「殿下、嫌なら言わないでくださいよ」


顔に出てたらしい。


いや、男と手を繋ぐのというのはどうしたって首を傾げてしまうだろう。


女の子同士の仲良しで手を繋ぐ……または恋人同士の手繋ぎは割と微笑ましいのに、男同士だと途端に華が無くなるのは何故だろう?


イケメンならあるいはもう少し良さげかもしれないが、イケメンとイケメンの組み合わせで手を繋ぐとバックに薔薇が咲き誇る絵面になりそうなのは俺個人による醜い偏見だろうか?


うん、やっぱり俺には男女平等なんて綺麗事は守れそうにないや。


アイリス優先で行こう。


「お!アイリス、あれ!」

「わぁ……美味しそうですね!」


俺達が見つけたのは、とある屋台。


大きな回転式の魔道具に大きな肉が刺さっており、それを回転させてスライスしている。


ドネルケバブと言えば分かりやすいかな?


しかも、パンと野菜で挟んで提供しており、マジでドネルケバブという名前でもおかしくない品が売られていた。


「おじさん、5つほどくださいな」

「毎度!……って、ん?5つもか?お使いか何か?坊主たち3人で食べるには多いようだが……」

「ああ、気にしないで。割と大食いなんだよね。美味しかったまた買うからオマケしてね」

「はは、あいよ!任せときな!」


気前のいいオジサンに大きめのサンドされたそれを渡されると、お肉が大好きなアイリスが早速食べる。


「……う〜ん!」


何とも幸せそうな表情をしている。


メシの顔しやがって。


可愛いヤツめ。


「美味しいですね」


トールも食べたのか、いい顔をしていた。


アイリスほど露骨に表情には出ないが、心做しか美味しいものに出会うと表情が柔らかくなる気がする。


そういう所は兄妹っぽいね。


まあ、美形という点では普通に兄妹らしいといえばらしいけど。


俺?俺は突然変異種だからノーカンね。


そんなアホなことはさておき、俺も食べてみるが、中々美味しくて夕飯を気にせずにお代わりをしたくなるが……無論、ルドルフ伯爵がせっかくもてなしてくれるので我慢する。


「あ、食べ終わっちゃいました……」


そして、アイリスはすぐに残っていたものを平らげたようだ。


別に早食いとかではないはずだし、一口もそんなに大きくないのにアイリスって食べるの早いよね。


よく噛んでるようにも思えるのだが……あんまりジッと見てると照れてしまうので、程々にする。


「お代わりいる?」

「いいんですか?」

「うん、勿論」

「ありがとうございます!」


何とも輝かんばかりの笑みを浮かべるアイリス。


俺も気に入ったので、空間魔法のストック用に買えるだけ買っておくことにする。


何とかトールが支払おうとする前に払うことが出来たので一安心。


「ぐっ……なんで、こんな時ばっかり速いんですか……」

「ふふん、年季が違うのだよ」


無論、ノータイムで空間魔法から取り出せる俺が遅れをとる訳が無いのだ。


「分かったら、大人しく奢られなさい」

「ぐぬ……次は負けませんよ」


やれやれ、空間魔法でのノータイム支払いに勝とうなど100年早い。


硬貨をチマチマ数えてるうちは、勝てるものも勝てんのだよ。


そんなことを思っていると、クイクイと袖を引っ張られる。


そちらをむくと、アイリスがコソッと俺にケバブを差し出していた。


無言で一口貰う。


「……うん、美味しい。ありがとう」

「えへへ」


なんか、こうしてると兄妹か恋人みたいだな。


まあ、前者はその称号を盗るとトールが怒るので後者がいいかな。


とはいえ、年齢的には兄妹の方が周りからしたらしっくりくるかも。


手を繋いで仲良しな、文字通りの可愛いカップルにも見えるようで、その後の屋台でも少しオマケして貰えたのは好都合であった。















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