第43話 馬との相性

翌朝、朝食を食べるとお世話になった村人達にお礼を言ってから俺達は馬車での移動を開始する。


「明るい人達でしたね」


見送ってくれる村人達が見えなくなるまで手を振ると、そんな感想を漏らすアイリス。


確かに、中々に気の良い人達であった。


これからはチーズや牛乳などをたまに仕入れに来るつもりだが、その時が楽しみだ。


「だね、また来ようか」

「はい」


こくりと頷くアイリス。


「それにしても……トールは本当に馬に乗るのが様になってるなぁ……」


近くを並走するトールは、見事に馬を操ってるが、乗ってる姿が普通に絵になってるので少し負けた気になる。


俺は一応仮にも王子様なのに、この差は一体……


マルクス兄様だったら、まあ、適う気もしないので普通に流石イケメンと思えるが、やはりトールも同類なのだろう。


「エル様も上手でしたよね。お兄ちゃんに教えてる時に見ました」

「そう?あんまり得意じゃないんだけどね。トールは直ぐに覚えたけど」


俺が覚えるのにかかった時間が何だったのかと思えるように、俺の拙い説明で短時間で乗りこなしてみせたトール。


一応、その後に他の騎士さんから細かなアドバイスは貰っていたが、ほとんど1人で覚えたのは本当に凄い。


「白馬も似合いそうで羨ましいよ」

「白いお馬さんですか?それは、エル様の方が似合いそうです」

「そう?」

「はい。カッコイイと思います」


天然でフォローしてくれるアイリス。


その優しさが地味に嬉しく想う。


本当に良い娘だ。


前世では、おとぎ話とかで白馬に乗った王子様がそこそこの頻度で登場していたが、こちらではそういう感じの本は見たことがないので、アイリスも何となくのイメージで口にしたのだろう。


俺としては、白馬の似合う王子様という路線は中々に魅力的でカッコイイと憧れもあるのだが……いかんせん、周りにイケメンが多いとハードルの高さを嫌でも痛感させられるよね。


まあ、そういうカッコイイのはマルクス兄様とかトールに任せるべきか。


ちなみに、フレデリカ姉様も地味にそれが似合いそうだと思う。


姉様は意外とカッコイイ所もあるから、女性人気もあるしね。


あの人は強さと美しさと可愛さを兼ね備えた自慢の姉ですよ。


なお、リリアンヌ姉様は普通に可愛らしい人だと思います。


これから会いに行くレフィーア姉様は美人さんタイプに含まれるかなぁと思うが、最後に会ったのが4歳の頃なのであれからますます綺麗になってても驚いたりはしない。


女の人は少しの間に激変すると聞いたことあるし。


「そっか、ありがとう。じゃあ、今度はアイリスを後ろに乗せてどこか行こうか」

「本当ですか?楽しみです」


なんとも無邪気な笑顔をなさる。


というか、ナチュラルに誘ってもこの反応なのは少し心配になるレベルだが……まあ、この子は意外としっかりしてる所もあるし大丈夫かな?


チラッと、外のトールを見ると、周囲を警戒してるようだったが、俺の視線に気づいたのかこちらを向いた。


くっ……普通にしてるだけで、凛々しいうさ耳美少年の図になるのは反則だと思う。


先程も、村を出る時に多くの黄色い声援がトールに届いていたが、本人はまるで気にしていなかった。


これがモテに慣れてる奴の余裕なのか……俺には理解出来そうにない感覚だ。


こっちとら、生まれてこの方モテたことがほぼないので、羨ましいとは思うが、モテたらモテたで何か裏がありそうだと疑心暗鬼になると思うので面倒くさい男だと思う。


「……うん、アイリスは癒さるね」

「えっと……はい……」


イケメンとの格差に若干ブルーになったので、アイリスを撫でて癒されることにする。


少し戸惑ったアイリスだったが、嬉しそうに撫でられてくれるので何とも愛で甲斐があるというもの。


チャームポイントのうさ耳が、撫でるとピクピクと動くのも癒される光景であった。


そんな俺とアイリスの様子が見えてるのか、外のトールは呆れたような表情をしていた。


まるで、『またくだらない事考えて、気分転換にアイリスを愛でてるだろうなぁ……』という、感じに見透かしてそうなのがまた腹立たしい。


何だか最近奴は俺の心を見透かしてるような節があるので、本気で心を読む力でもあるのでは?と疑ってしまう。


まあ、俺もトールの考えが何となく読めるようになってきたが……これが以心伝心なのだろうか?


正直、男と心を通わせてもまるで嬉しくないので、可愛い女の子と以心伝心したい。


アイリスとは、そこそこ心の距離が近づいてるとは思うが、この子場合かなり純粋なので俺の黒い気持ちまでは汲み取れないのだろう。


それはそれで愛らしいものだ。


まあ、人間素直が一番だよ。


汚れてしまってる俺は、正直この純粋さが心地よくすらある。


闇堕ちアイリスとかそれはそれで需要がありそうだが、今の素直なこの子の様子が何よりの心の癒しと言えた。


トールがシスコンなのも頷けるというもの。


そういえば、トール曰く、アイリスは母親似らしいが、2人の母親はアイリスが美人さんに育った感じなのかな?


将来そうなったアイリスはさぞ綺麗だろうと、それを楽しみにしておこうと心の中で誓うのであった。








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