第30話 兄的には
「ふぅ……極楽極楽」
「なんですかそれ?」
湯船に浸かると、思わず出てしまう言葉にトールが怪訝な顔をする。
「気持ちいい的な意味かな?」
「殿下は変な言葉知ってますよね」
「失礼なヤツめ」
お風呂に妥協をしない俺は、寝室よりもお風呂の広さを優先した。
その結果、かなり大きな浴室が出来たのだが、1人で入るのも勿体ないのでトールと一緒にお風呂に入ることにしたのだった。
本当はアイリスが良いけど、流石に子供とはいえ、嫁入り前の女の子と一緒に入浴は男としてどうなのかと自重した。
「しっかし、筋肉凄いな」
「そうですか?」
知ってはいたが、イケメンや美少年というのはスタイルも良いらしい。
スタイルと聞けば、女性のことしか連想しない人も居るだろうが、男も理想の体型というのは存在している。
俺の場合は、あまり筋肉がつかないうえに肌も髪も真っ白だから、ヒョロく見えるかもしれない。
カッコ良さはまだまだ遠そうだなぁ……
「しかし、妹とお風呂に入るかと思ったけど、よく俺と一緒に入る気になったよね」
誘っておいてなんだけど、シスコン的には妹とのお風呂を望むものかと思っていたのでそう聞くと、トールはため息交じりに言った。
「まあ、護衛としてある程度やる事もありますから」
「俺がアイリスのお風呂を覗くのを阻止したり?」
「そもそもそんなことしないですよね?」
まあ、そうなのだが。
「それよりも、アイリスが殿下を覗くかもですし」
「俺を?それはないでしょ。見ても面白くないし」
「いえ、最近のあの子ならあるいは……」
何か心当たりでもあるようなトール。
いやいや、あの純情うさ耳美少女がそんなことしないっしょ。
「まあ、その場合は別に見られてもいいけどね。アイリスなら」
「……殿下、聞きたいのですが」
「ん?何かな?」
「殿下って……うちの妹のこと本当はどう思ってるんですか?」
ふむ、また唐突だな。
「どう思ってて欲しい?」
「さて……それは殿下次第かと」
なるほど。
うーん、と体を解してから、俺は湯船のお湯を掬って言った。
「少なくとも、悲しませたくない女の子……かな」
出会ってからこれまでで、愛着もあるのだろうが、少なくともあの子の悲しい顔は見たいとは思わなかった。
「あ、でも、恥ずかしい顔はもっと見たい」
「……それは、俺に言わないでくださいよ。あと、さっきの言葉が台無しですよ?」
「まあ、言うて、俺もまだ子供だし、どうにか思うには足りないものが多すぎるんだろうね」
その足りないものが揃った時……あるいは、それ以上に好きという気持ちにリミッターが解除された時は……
「まあ、当たって砕けるのも一興だろうさ」
「はぁ……まあ、いいですけど」
「おや?シスコンのトールさん的には嫌じゃないの?」
「シスコンが何かは知りませんが、妹の幸せを邪魔する兄が居るとでも?」
「まあ、居なくはないかな」
前世のネットの掲示板とかにはそういう話はゴロゴロあったなぁ……まあ、作り話が大半だろうけど、SNSとかでも似たような話をめっちゃ聞いたし、やっぱり人間は滅ぼすべきだよねぇ。
あ、でも、ウチの家族と国民と、前世で創作で面白い漫画やラノベを作る人は生かしておきたいかな。
なんにしても、この世界でもお家騒動とか色々あるし、妹の幸せを願わない兄とかもたまに居そうではある。
「……そこは頷くところでは?」
「注文の多いヤツめ」
「まあ、そこはいいとしても、別に殿下なら僕も心配はしてませんよ。泣かせるなら容赦はしませんが」
「良いお兄ちゃんだねぇ」
我が兄である、マルクス兄様も良い兄だと思うが、何故に俺の周りには良いお兄ちゃんが多いのだろうか?
美少年、イケメンは中身もそうなのだから、凄い。
「……というか、そろそろ上がりません?」
「おいおい、入ってからまだ30分も経ってないぞ?お風呂は6時間くらい入ってなんぼでしょ?」
「いや、それ普通におかしいですから」
まあ、6時間は冗談だが、トールはそこまでお風呂が好きではないのだろう。
なんか、お風呂嫌がる子犬を思い出す。
「アイリスは風呂好きらしいのにね」
「あいつか変わってますから」
何となく、ご機嫌で洗われるチワワの動画を思い出した。
「……すみません、でます」
「うーい」
ヒラヒラと手を振ってトールを送り出す。
なんとも色気はないが、やはりお風呂で誰かと話しながらの入浴も悪くない。
まあ、1人風呂も好きだけどね。
好きな人とだと、どんな風になるのやら……やっぱりあれか、エキサイトするかな?
でも、お風呂場ではゆっくり浸かりたいものだ。
ちゃぷんっと、シャワーから水滴が落ちる音がする。
この心地良さが素晴らしい。
やっぱりあれだね、出先でもお風呂はかかせないし、この家の魔法はもう少し便利に改良しようかな。
作るのではなく、持ち運び出来るようにしたいものだが……それはおいおいの課題だな。
毎回ベストな感じに作れるかは分からないしね。
そうして、俺はゆったりとお風呂を楽しむのであった。
まあ、あれだね、お湯というのは人の心を癒す力があるんだろうね。
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