第14話 兄妹
「院長先生」
しばらくして、アイリスと共にケモ耳の少年がやってきた。
アイリスと同じくうさ耳なのだが、顔立ちは少し幼いながらも凛々しいという表現が近いかもしれない。
まあ、幼いと言っても俺よりも年上のようだが。
10歳くらいだろうか?多分、そのくらいかな?
「来ましたね。話は聞いてますか?」
「少しだけ……そちらが殿下ですか?」
少し警戒気味の少年。
まあ、いきなり王子が引き取りたいとか言い出したら怪しさ満載か。
「やあ、第2王子のエルダートだよ。エルって呼んでくれていいから。君の名前は?」
「……トールです。それで、本当に僕たちを引き取りたいと?」
「まあね」
「……何が目的ですか?」
目的……そう聞かれると難しいけど……
「んー、まあ、早めに後継者が欲しくてね」
「な……!」
「え……?」
「で、殿下!それって……」
絶句するトールとびっくりしながらも顔を赤くするアイリス。
周りの反応に一瞬首を傾げえしまうけど……ああ、今の言葉じゃ誤解を招くか。
アイリスをお嫁さんに欲しい的な?
にしても、俺と同い年くらいに見えるアイリスでさえ、その思考になるとは流石は異世界。
女の子の成長が早いだけなのかもだけど……今の年頃の前世の俺ってどんな感じだっけ?
絶賛いじめられ中&読書の虫だったかもだけど……まあ、あれはアレルギーがあった俺だけの例外だろう。
うん、あれは過去、俺は未来に生きよう。
実際、婚約者とかはそのうち必要になるかもだけど、まだまだ恋愛とかは早いしね。
まあ、そういうラブコメの波動は置いておいて。
「ごめんごめん、俺を守ってくれる騎士と、お世話をしてくれる侍女が欲しいって意味だよ」
「あ、そういう……」
ホッとしながらも、少し残念そうな表情をするアイリス。
何故にそんな顔をするのだろう……?まあ、いいか。
「で、提案なんだけど、俺の側で俺を守ってくれない?」
「……僕たちは、亜人ですよ?」
「うん、そうだね」
「僕が貴方を裏切ることもあるかもしれませんよ?それでもこんな出会ったばかりの亜人にそんなことを頼むんですか?」
「んー、俺はアイリスと話して君を信じる気になったんだよねぇ」
「え……?わ、私……?」
驚くアイリス。
まだまだ疑念たっぷりのトールに俺は本音を言うことにした。
「うん、幼いながらも妹のアイリスを自分なりに守ってたみたいだし、アイリスの様子を見て、君が妹に優しんだろうなぁって」
「それで、どうして信じる気になるですか?」
「まあ、単純に勘かな?俺が君とアイリスを養うからその代わり俺を守って欲しいんだ」
俺の今の護衛をしてくれている騎士とのグリスも、お世話をしてくれるメイドのメルも、あくまで父から命じられて俺を守ったりお世話してくれてる人達なので、基本的には国に仕えている。
だから、俺がもしこの先独立したり、どこかに婿入りした時に俺の側で俺個人を守ってくれる人が欲しいというのが本音であった。
亜人は人よりも身体能力に優れてるし、現在がどの程度の力量なのかは定かではないが、今から鍛えればそう遠くないうちには及第点を出せるようになるだろう。
というか、俺としては現時点で既にトールはそこそこの力量なのではないかと考えている。
人の何倍も食べる亜人であるトールとアイリスが、孤児院以外で食料を確保する方法はかなり限られている。
盗みなどに関しては性格からして除外してるし、被害があればそれこそ孤児院にも迷惑をかけるから、それは確実にしないとして、まだ俺と同じくらいのアイリスは残り物を優しい人達から少量貰っていたとしても、それでも生きるのに足りるかは微妙なところ。
そうなると、ギリギリでも食料を調達していたのはトールということになる。
魔物とかを狩って、その体内にある魔石をお金に変えて食料を得ていた……というのが恐らく一番可能性が高そうだ。
事実、トールの腰についてる小さい袋から魔石らしき魔力反応が確認できたので、間違いないだろう。
「……本当にいいんですか?僕たちは亜人なんですよ?」
そこまで悪い話でもないと思ったようで、今度は警戒よりも、むしろ純粋な疑問といった様子で尋ねてくるトール。
うーん……亜人ねぇ……
「まあ、亜人だろうと人間だろうと、良い人も居れば悪い人も居るだけだしね。それに、俺は君たちの耳とか尻尾とか可愛いと思うしね」
同じ人間ですら、差別が存在するのだから、結局のところその人の人格=種族の全てではないし、良い人は良い人、悪い人は悪い人というだけ。
付け加えると、良い人も環境で育まれたり、周りの影響を良く受けてそう育ったのだろうし、悪い人も育った環境でそうならざるおえなかっただけの人も根っから腐ってる人もいる。
善人が悪人になったり、悪人が善人になったり……世の中って、そういう不可解なこともあるものだし、まあ、ある程度信用出来る人は自分で選ぶべきだろう。
少なくとも、人間の孤児院で優しい妹を守っている優しい兄の方が、面識のない騎士よりも遥かに信用が出来るだろう。
「……分かりました。妹共々よろしくお願いします」
俺の答えにトールは少し驚きつつも、妹のためか俺の誘いに頷いた。
「そっか、良かったよ。これからよろしく、トール、アイリス」
「あ、えっと……よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるアイリス。
素直で可愛いものだ。
兄の方は準備のために早々に部屋を出て行ってしまったが……まあ、乗り気なようで何よりだ。
まだ信用を得たとは言い難いが、それはその内でもいいし、少なくとも孤児院に居るよりも俺が引き取った方がこの子達にとっても、孤児院にとっても最良であろう。
そうして、俺はその日、後に生涯の友であり騎士となるトールと、俺の専属のメイドさん兼、色々あって側室になるアイリスと知り合うのであった。
まあ、それを知るのはまだ先の話だけど。
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