第13話 孤児院

「えっと、ここです……」


何故か先程から照れてるようなアイリスに連れられて来たのは先程の店から比較的近めに位置する孤児院であった。


やはり、そこそこ援助があるからか、割と綺麗な建物だが、外で遊んでいる子供達の中には、アイリスを見て露骨に表情を変える子も居るので若干ため息をついてしまう。


まあ、この子達もこの子達なりに色々ここでのルールがあるのだろうが、どうせなら仲良くすればいいのに……なんて、綺麗事を言うが、そんな事が出来ればもう少し人間は争いの歴史から学んでそうだなぁとも他人事のように考えてしまう。


愚かしいが、それもまた真理なのだろう。


「お兄さんに会う前に院長先生だったよね?その人にも会いたいんだけど……」

「えっと、こっちだと思います」


少しだけ悲しそうな表情をしていたアイリス。


まあ、ここからでも「げ、アイリス帰ってきた」とか、「相変わらず変な頭」とか言う陰口がオープンに聞こえてくるのだから、俺だって嫌になりそうだ。


ふむ、とはいえ、その辺は何れここの責任者に教育して貰う方が波風立たないかな?


部外者の王子が何を言っても、本気で受け止めることは難しいだろうし、今は仕方ない。


ただ、この子達が将来他人にも優しく出来るようにケア出来るような体制は作っておくべきかな?


まあ、その辺は父様やマルクス兄様と相談が必要かもだけど。


「院長先生、戻りました」


そんなことを思いながら案内された部屋に入ると、そこには少し年配気味の優しげな女性と、少し若めの女性の2人がおり、それぞれに幼い子供をあやしていた。


「お帰りなさい、今日はどこに……」


と、その言葉の途中で俺に気づいて、年配気味の女性……多分、彼女がアイリスの言ってた院長先生という責任者なのだろう。


その人は、俺を見るなり一瞬かなり驚いていたものの、すぐに傅くように頭を下げて言った。


「お久しぶりでございます、エルダート殿下」

「ん?会ったことあったかな?」

「いえ、失礼致しました。こちらがお見かけしたことがあるだけでございます。随分と大きくなられたようで、嬉しく思います」

「あ、あの……院長、こちらの方は……」


赤ん坊を抱きながら若い女性……多分、シスターか何かかな?その人がかなりびっくりしながら院長先生に俺の正体を尋ねる。


「これ、メリア。こちらの方は我がシンフォニア王国の第2王子のエルダート・シンフォニア殿下ですよ。頭を下げなさい」

「ああ、いや、楽にして貰っていいよ。今日は少し話をしに来ただけだから」


流石に幼子の世話をしてる人に跪かせるのもね……なんというか、なんちゃって王子なのだが、王子という身分が一応あると分かると困惑してしまうものだが、まあ、そんなことは口にせずに俺は院長先生に言った。


「この子達ともう一人亜人の子が居るよね?」

「……はい」

「資金、かなり無理してたよね?」

「そのようなことは……」


否定しようとして、アイリスが俺を連れてきたことで何が起こっているのかを理解したように、院長先生は黙り込む。


「国には言ってないんだよね?」

「……はい。ただでさえ今でも陛下や貴族様達にはかなりの援助を頂いているのにこの上更に頼むことは出来ませんでした」


孤児への支援……全くの他人に金を出せというのは、やっぱり色々と面倒事が多い。


下手に言って、怒りを買うようなマネも出来ない……なるほど、確かに難しい問題だ。


無論、父や兄はこの国の民のためなら、その程度惜しむ人達ではないが、他の貴族の手前あまり派手に支援も出来ない……人間社会とは実に面倒この上ないものだが、今はそれはいいか。


「まあ、単刀直入に言うと、要件はこの子達、俺が引き取りたいってことなんだけど……どうかな?」

「え……?」


いきなりの発言にアイリスがかなりびっくりしていた。


一応、俺が王子なのは先程言ってあるが、この事は言い忘れてたので仕方ない。


「……殿下がでございますか?」

「うん、無論本人達が拒否すれば諦めるけど……どうかな、アイリス?」

「え?あ……えっと、お兄ちゃんがなんて言うか……」


まあ、そっちも会わないとだけど、アイリスの兄なら悪いもふもふではないだろうと勝手に思ってる。


「じゃあ、お兄さん呼んできてくれないかな?」

「わ、分かりました……」


アイリスが出ていくのを確認して、俺は院長先生に視線を向ける。


「アイリスの話を少しだけ聞きました。多分、今すぐ解決出来る問題でもなさそうなことも」

「……ええ、差別意識というものは難しいですね。私がもっとしっかりしていれば、あの子たちに苦労もかけないのですが……」

「そんな!院長先生は頑張ってます!」


若いシスターさんのフォローに微笑みながら、院長先生は俺に言った。


「私は昔、陛下に救われました。その縁でこの孤児院を任せれたのですが……まだまだ未熟な私では、あの子達をちゃんと見るのは難しいのでしょうね」


少し悔しそうにも聞こえるそのセリフ。


やっぱり、この人は信用出来そうだ。


子供たちの様子からも慕われてるのが分かる。


アイリス達をこの人から引き離すのは色んな意味で難しいかもだけど……まあ、ダメ元でもやってみるとしよう。


「もし、あの子達がそれを望むようなら、よろしくお願いします」

「まあ、ダメでも、ちゃんと孤児院へのフォローはしますから、そこはご安心を」


そう付け足すと、院長先生は少しだけびっくりしたようだったが、くすりと笑った。


「やはり、似ておられるのですね」

「そう?この通り見た目は父や兄とは違うけど……」

「内面がでございます。陛下や王妃様のようなお優しい方に育って下さって感激でございます」


まあ、そりゃ、あの環境なら余程屈折してない限りはそこそこ普通に育ちそうだが……フレデリカ姉様のフレンドリーさを見習いたいものだ。


敬語とタメとどっちが良いのか俺自身分かってないので、口調も微妙になってるが、気にしたら負けだ。









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