・実行委員としてギャルと学校を回ろう
園芸部は地味だ。しかし実行委員の立場になってみると、園芸部は縁の下の力持ちだった。
まず第一に、彼らは育てた花や草木で学内を飾り立てくれる。
さらには収穫物を販売したり、今年は料理研究会と合同で野菜チップスを売るそうだ。
ポテチはあるのかと、クロナが飛び付いていた。わからんけど重要らしい。
「そろそろ他に行かないとな」
「あ、そうだね、ユカナの軽音部行かなきゃ!」
園芸部は学外に大きな畑を持っている。
お歳をめされた農家が、管理できなくなった畑を無償で貸してくれたものだ。
「手伝いありがとう、よければまた来てくれ」
「もち! 園芸部って意外と楽しいんだね!」
「あのヘチマのスポンジ……学生が買ったらダメだよな……」
「悪いね、あれは毎年、午前で売り切れる」
「だよな……」
市街にポツンとある畑を離れて、俺とクロナは校門をくぐった。
うちの古民家に、昔ながらのヘチマを使ったスポンジを置くと良さげではないかと思う。
ヘチマの実を枯らして、それを腐らせて繊維だけを残すと、自然志向の意識高い系グッズになる。
「あれ、なんか騒がしいね」
「みたいだな……」
文化棟に戻り、軽音部の前までやってくると中の雰囲気がなにやら不穏だった。
どうやら演目で揉めているようだ。
俺とクロナは入室をためらって、どうしたものかとしばらく顔を向け合った。
「人の部室の前でイチャイチャしないでくれる?」
「で、出たな……」
「そんなことより大変だよっ、なんか中揉めてるよっ!?」
「うん、知ってる。前から揉めてたから今さらかな」
ユカナはやっぱりクールだ。
彼女は楽器の保管をしている準備室の方に俺たちを通してくれた。
俺たちが騒動に加わっても何もできないしな……。
「よくわかんないんだけど、アレって何を言い合ってたの?」
「音楽性の違い。軽音って言っても、ジャズからロックまで色々あるの」
「へー……だったら両方やればいいん」
「私もそう言った。けど、どうしても折り合い付かなくて……」
よっぽどうんざりとしているのか、彼女は深いため息を吐いた。
隣で言い合いなんてされたら、楽しく演奏なんてしていられないのは確かだ。
「そんなに合わないなら、いっそ場所を二つに分ければいいんじゃないか?」
「それも無理。アンプとスピーカーは一組しかない」
あと2週間しかないってのに、なんかメチャクチャ面倒なことになってるな……。
「ねぇねぇ、それっていくらするの?」
「調べたけど、アンプだけで、10万くらいするみたい……」
「うげ……」
「そりゃさすがに予算申請は通らないな」
音楽って思っていた以上にお金がかかるんだな……。
ユカナは本心からこの騒動に悩んでいるようだった。
実行委員として手助けしなければいけない義務感にかられた。
「でもさ、一応申請するだけしてみたら?」
「じゃあ、ダメ元でお願い……。あ、そうだ、そこの机邪魔だから、旧校舎の準備室に運んでもらってもいい? それが終わったら、今日はもういいから……」
「わかった。……あまり重く受け止めすぎない方がいいぞ。弁当のリクエストくらいなら聞くから」
「卵焼き」
「いやあんだけ食ったのに他にないのかよっ!?」
「わかる。うちのママも家事とかしてくれない人だから、手作りの卵焼きって憧れだもん……」
「さり気なくお前も重いな」
停滞した話を打ち切るために俺は机を抱えた。
イスの方はクロナが持ってくれたので、後は階段という難関を乗り越えるだけだった。
「あれ、もう下校時刻だ……」
「みたいだな。これが終わったら帰るか」
先生も鳴ったら残りたいやつだけ残って、他は帰っていいと言っていた。
俺たちは軽音部での騒動で受けた暗い気分を明るさで打ち消して、1階の準備室へと入った。
・
「うわ、ぐっちゃぐちゃ……。もーっ、みんなテキトーに押し込んで帰ってるでしょ……!」
準備室はカオスだった。
邪魔物を押し込むように物という物がひしめき、大半がどこからか運ばれてきた机とイスだ。
このままでは明日には要領オーバーになってしまう。
「なら帰るのは少し整理してからにするか」
「なんでうちらが尻拭いしなきゃなんないのさーっ!」
「そういう役回りを頼まれたからだな。俺は机を上げるから、クロナはイスを頼む」
うちのニャンコには悪いがちょっとだけ残業だ。
机をひっくり返して別の机の上に重ねて、クロナもイスを重ねていってくれた。
重くもないが軽くもない。一通り終わった頃にはシャツの下が汗ばんでいた。
「はぁ……終わったぁぁっ!」
「だいぶさっぱりしたな。ちょっと良いことをした気分だ」
「そう? 誰もうちらを褒めてくれないけどね」
「そこがヒーローっぽくていいじゃないか」
「男の子ってそういうの好きだよねー。ま、確かにちょっとだけいい気分かな!」
ちょっと得意げにクロナがくるりと回ると、短いスカートがひらめいて男子の視線を奪った。
見ていたのを気づかれたような気がする……。
「ふふーん……」
「な、なんだよ……」
「べっつにぃー♪ 与一ってさ、真面目ぶってるけど結構――」
しかしその言葉は続かなかった。
入り口の方から何か硬い音がして、クロナも人の目や耳を気にしたみたいだ。
「とにかくもう帰ろう」
「そうだね。続きは家に帰ってからね」
「勘弁してくれ……なんでそんな、短い――やっぱりなんでもない」
「こっちの方がかわいいじゃん。与一って脚好きだよね」
「だから学校でそういう話は止めてくれ……!」
「家ならいいのっ!?」
「いいわけあるかっ!」
話を帰るのもかねて準備室の扉に手をかけた。
ところが開かなかった。俺たちが気づかないうちに施錠されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます