お部屋探しの参考(書籍発売一ヶ月記念SS)
※Twitterに上げたものと同じです。短いです。その内一章ラスト部分に移動させます。
「牧村先輩は、お部屋探しの時にはどんなことを重視しましたか?」
「そうだなあ」
前の住人の退去予定が少しずれたので入居が遅れたという話をしていたら、美園から質問が飛んで来た。
「色々あるんだけど、一番は立地かな」
「立地と言うと、大学からの近さですか?」
もちろん部屋の機能も軽視はしなかったが、そちらは物によっては自分の手で対策や改善が可能だ。しかし地理的な面に関しては僕の手ではどうしようもない。同じ家賃でもう少しいい部屋も候補には挙げたが、最終的には今のアパートを選んだ。
「それが最重要だったけど、あとは買い物とかもね。大学の北側とかだと割と不便だから」
「あ、確かにそうですね。父が同じことを言っていました」
「部屋選び、お父さんがついて来てくれたんだ」
「はい」
そう小さく頷いて、美園はどこかくすぐったそうな、少し恥ずかしそうに、それでいて優しい笑みを浮かべた。
「不動産の仕事をしていることもあって、ついて行くと言って聞かなかったんです。私よりも張り切っていましたよ。凄く頼りにはなりましたけど」
可愛らしく唇を尖らせているが、それが照れ隠しであることは明白だ。美園が家族を大切に思っていることも、思われていることも、よくわかる。
「いいお父さんだね」
「……ありがとうございます」
恥ずかしそうに視線を逸らしたものの、お礼を言う時には視線を合わせる美園。こういったところからも、ご両親が素敵な人なのだろうと伝わる。
「それよりも、お部屋探しのこと、もっと教えてほしいです」
「それはいいけど、どうしてそんなに部屋探しのことを知りたいんだ?」
ほのかに染まった頬と可愛らしい不満げの上目遣いが相性抜群の美園が、誤魔化すように質問を続ける。
「もちろん今のお部屋に不満は無いんですけど、自分で決めた訳ではないので、卒業後のことも考えると色々知っておきたいなと思いまして」
「なるほど」
気が早いと思わなくもないが、真面目な美園らしいと言えばらしい。
「まあそういうことなら、一つの考えとして聞いてくれるかな。あんまり参考にならないかもしれないけど」
「そんなことありませんよ。将来のお部屋探しに、凄く参考になりますから」
そうかなあと思ったが、美園が期待に満ちた目を向けてくれていたので、きっとそうなのだろう。
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