初デートの帰り道(書籍発売記念SS)

4月20日に富士見ファンタジア文庫より『サークルで一番可愛い大学の後輩』が発売されたことを(個人的に)記念し、ちょっとしたSSを書きましたので掲載します。

時系列としては12話の後のエピソードです。

※Twitterに上げたものと同じ内容で、とても短いです。ご容赦ください。


◇ ◇ ◇


「結構歩いたし、疲れた?」

「……え? あ、そんなことはありませんよ。ちょっと考え事をしていただけです」

「そっか。でも、もし疲れたなら遠慮なく言って。って言っても、バスに乗っちゃったから何が出来る訳でもないんだけど」

「ありがとうございます。牧村先輩」


 少しおどけながらこちらを気遣ってくれた牧村に、美園は笑顔で会釈を返す。

 嘘は言っていない。日常生活と比べれば歩いた距離は長いが、牧村は美園に歩調を合わせてくれていた。何より、彼が隣を歩いてくれたのだから、疲労など感じるはずもない。だから本当に、少し考え事をしていただけ。

 気を遣わせてしまったことは申し訳ないが、少しの変化に気付いてくれたこと、気を遣ってくれたことが嬉しい。浮かべた笑顔は作ったものではない。牧村と一緒にいる時はいつもそうだけど。


「考えていたのはバスのことなんです」


 大学から駅に向かうバスにはいい思い出しかないと、牧村にそう伝えた。ただ実は、駅から大学方面へ向かうバスには、逆にいい思い出が無い。

 受験の時は、自信はそれなりにありはしたが、やはりそれでも緊張した。

 その前、去年の文化祭に向かう時は、最悪の気分だった。でも今日は――


「こちら方向のバスも好きになりました。今日のお出掛けがとっても楽しかったからです。ありがとうございます」

「……そっか。こちらこそありがとう。僕も凄く楽しかったよ」


 少し驚いたような顔をした後、牧村が優しく表情を崩す。


(ごめんなさい。今後は少し嘘をつきました)


 会話を続けながら、美園は心の中で謝罪を告げる。

 車窓から見える景色は少しずつ雰囲気を変えていく。市街地から郊外へ、建物の高さが少しずつ低くなっていく。そして前方に小さく見えている大学の敷地と校舎が、段々と大きくなっていく。もうすぐ、この幸せな時間は終わってしまう。


(やっぱり、今日はまだ好きになれないな)

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