第23話 ホワイトデーのお誘い

 今は小町先輩と遅れて部室に入ってきた星野さんが長机を挟んで俺の向かい側に座っている。

 二人は仲良く並んで座っている訳ではなく、椅子二つ分の空間が空いていた。


 お互いに初対面で慣れていないから、気を使っているのだろうか?


 よく見れば、普段の二人とはいつもと雰囲気が違っている。 


 簡単に言えば二人の雰囲気が重い感じだ。

 それに二人が俺に目で何かを訴えかけている気がする。

 何を訴えたいかは分からないが、何故か二人の視線が怖い。


 例えるなら、動物園でライオンに鉄格子一つ隔てた状態で睨みつけられている感じである。

 

 二人共、お互いに警戒し過ぎだろうと言いたい。


 もし俺の考えが正しければ、お互い初対面の二人だから緊張しているだけだ。

 ならば二人の共通の友人である俺が、二人の間に入って話題を盛り上げるのが良いだろう。


 例えば、二人が意気投合出来る様な話題を振ってみるのはどうだろうか?

 意外と会話が盛り上がり、二人が打ち解けるかも知れない。


(よし、そうしよう)


 俺はそう結論付けた。


(……っと言っても二人の共通の話題って?)


 俺は二人の為に紅茶を淹れながら、共通する話題を考えていた。


 そのまま出来上がった淹れたての紅茶を二人の前に置く。

 今は茶菓子が切れているので、何も出せない事が申し訳ないと感じる。


「米倉君、ありがとう」


「ごめんね。なんか気を使って貰って!!」


 それぞれにお礼を告げられている時に、俺は突然三人が共通する話題を俺は見つけた。


(茶菓子で思い出したけど、俺って二人からチョコレート貰ってるよな?)


 小町先輩は手作りチョコで星野さんは市販のチョコの一口サイズのチョコレート。

 小町先輩の方が手間暇かかっているけど、確かに二人からチョコレートを貰っている。


 (ホワイトデーの話題を振ればどうだろうか? 星野さんが部室に来る前に丁度話していた話題だし、問題はないだろう)


 淹れたての熱い紅茶を美味しそうに飲んでいる二人に向かって俺は話しかけた。


「えっと、来月の3月14日なんだけど」


「「うん」」


 二人の声が綺麗に重なる。

 

「「えっ!?」」


 そしてまた綺麗に重なった。


「貴方…… いえ星野さん。どうして貴方が返事するの? 米倉君は私に話しているんだけど」


 星野さんが来る前に小町先輩に3月14日の事を話していたから、そう思うのも無理はない。


「でも3月14日の件と言えば…… ホワイトデーだよね? それだったら私の事かなって……」


 星野さんがそう返した。


「ちょっと待って、じゃあ星野さんも…… 米倉君にチョコを渡したって事なの?」


 小町先輩が確認する様に俺に視線を向けてきた。


「はい……」


「嘘…… いつ貰ったのよ?」


 小町先輩は滅茶苦茶動揺している。


「小町先輩あの日…… 俺が知り合いを駅に送ったって言ったのは星野さんの事だったんです。送ったお礼でその時にチョコを貰ったんですよ」


「それじゃ私が渡す前に!?」


「ふふ~ん、そういう事になるのかな? だから3月14日の事を話されたら、私の事だって思うのも無理はないよね」


 星野さんは何故か、勝ち誇った顔で得意気に胸を張った。


「チョコって言っても一口サイズの量販品だろ! 小町先輩は手作りだったんだぞ。お前に威張る資格はないからな!!」


「えっ!? 生徒会長が手作りチョコを米倉君に!?」


 星野さんは悔しそうな表情を浮かべたが、俺は何故張り合っているんだと突っ込みを入れたくなった。

 

 おかしな雰囲気に戻りそうだったので、俺は話を進める事にする。


「それ3月14日にこの部室でホワイトデーのお返しをしたいんです。趣向を凝らしてみようと思うので、部室で無いと難しいのですが来てもらえませんか?」


「私はさっきも言ったけど、大丈夫」


 小町先輩は即答してくれた。


「うーん。予定は空いているか見てみないと分からないけど、私も無理やり空けてでも行くから」


 星野さんも少し迷っていたのだが、来てくれるらしい。

 

「それじゃ、俺は二人分の用意をしときますね」


「それって二人同時じゃないと駄目なの?」


 星野さんが不服そうに言ってくる。


「出来れば二人同時の方がいいのですが…… 嫌ですか?」


 俺が考えているお返しは一人づつでも対応は可能なのだが、出来れば多くの人が集まった方が楽しいと思う。

 

「う~ん」


 星野さんと小町先輩はお互いをチラ見した後、二人同時にため息を吐く。

 二人の息はピッタリだった。


「仕方ないなぁ、私は良いよ」


「私も大丈夫」


 何か打算的な感じも受けたが、これでホワイトデーのイベントが決定した。


「ありがとうございます! 俺も気合を入れますので、楽しみにしてください」

 

 今日は二人揃って部室に来てくれたのだが、小町先輩は生徒会長としての職務があるし、星野さんも普段はダンスの練習が詰まっている。


 なので二人の時間が合うのはきっとホワイトデーになるかもしれない。

 

 俺の予想は的中し、二人が揃う事はあの日以来なかった。


 小町先輩と星野さんの二人は自分の時間が空いていれば、放課後部室に来てくれる。

 そのおかげで俺も暇する事の無い日々を過ごしていく。

  

 そして今日は3月14日、約束のホワイトデーの日を迎える。

 準備は万端で、普段からお世話になっている二人の為に、今日は出来る限りのお返しをしようと俺は意気込んでいた。

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