第21話 久しぶりの小町先輩と星野さん
三月に入ると冬の寒さも少しは落ち着き始めている。
最近の小町先輩は三年の卒業式の準備や期末テストの勉強に追われて、部室に顔を出す事が回数が少なくなっていた。
今までは週に二、三回の頻度で部室に来てくれていたのだが、最近は週に一回あるかどうかという位に落ちている。
小町先輩は真面目な性格をしているので、無理をして体調を崩さないか心配だ。
なので小町先輩が部室に来てくれる時は出来るだけリラックスして欲しいので、いつも最大限のおもてなしをしようと心がけていた。
後、星野さんも小町先輩と似たような感じだ。
彼女の場合、放課後はダンスの練習などが入っているとの事で、あれから部室には一度も来ていない。
だけど約束した通り、【おはよう】や【おやすみ】などの短文メッセージは毎日送っているので、俺としては会っていない感じはしていない。
今では廊下ですれ違った時には笑顔で話しかけてくれる様になったし、俺の方も星野さん限定なのだがタメ口も少し慣れた気がする。
◇ ◇ ◇
今日は期末テストの最終日、試験が終われば俺達一年生は春休みに入る。
そして春休みが終われば俺は二年生となり、四月の部活総会にて料理部の廃部が決まる事が決定していた。
だからこの春休みの間に、今まで使わせて貰った部室や調理器具の掃除をしたり、家では作れない手間や時間のかかる料理にも挑戦したい。
クラスメイト達は、期末テストの間に溜め込んだストレスを発散させる為に、友人と遊ぶ予定を立てたりしている。
だけど俺には一緒に遊ぶような特別仲の良い友人はいない。
一人で過ごす事に慣れていたので今までは寂しいとは思わないが、小町先輩や星野さんと知り合ったおかげで友達と過ごす事も楽しいと知った。
全てのテストを終えた後、俺は足は自然と部室に向かう。
明日から春休みとなるのだが、急いで帰る必要もないし授業が無くても明日も部室には来るつもりだった。
俺が部室で調理器具の手入れをしているとスマホの着信音が聞こえる。
どうやらメッセージが届いたようで、俺はスマホを手に取ると画面に視線を落とした。
「やっとテストが終わった~(>_<) 米倉君は今日、部室にいたりしない?」
「はい、今は部室にいます」
「それじゃ、今から行くね(*'▽')」
「わかりました。お茶を用意して待っています」
メッセージのやり取りを終えた後、俺はお湯を沸かし始める。
鼻歌まじりに準備をしていると、笑顔の小町先輩が部室に入ってきた。
小町先輩を見るのは久しぶりで俺のテンションも上がる。
「米倉君!」
「先輩お疲れ様です。最近は忙しそうでしたね。今日は大丈夫なんですか?」
「そうなの。生徒会の用事と期末テストが被っちゃって本当に死ぬかと思った…… だけど期末テストも終わったし、卒業式の準備も全部終わったからやっと自由になれたって訳」
小町先輩は修羅場を思い出してげっそりした表情を浮かべていた。
「本当にお疲れ様です。忙しかった分、春休みはゆっくりと休んでください」
「ありがとう。米倉君は春休みどう過ごすの?」
「俺ですか? 俺は休みの間も部室に通うつもりですよ。四月になったら料理部も無くなっちゃうんで、最後まで付き合おうかと思っています」
「やっぱり部員は探さないの? 人手が必要なら私も手伝うよ?」
そう告げた小町先輩の頬には【料理部、無くなって欲しくない】と言う文字が浮かんでいる。
小町先輩の想いを読み取った俺の胸はチクリと痛んだ。
しかしこの願いは叶える事は出来ない。
俺は正直な自分の気持ちを伝える。
「いえ、俺は誰かに強制とかはしたくないので、これで良いんです。だからこの話は終わりにしましょう」
「うん…… 前にも同じ事を言っていたよね。わかった」
小町先輩は見るからに落ち込んでいる。
そうなったのは俺のせいなので、元気になって貰える様に話題を変える事にした。
「あっそうだ、小町先輩、三月十四日はどうしてますか?」
「三月十四日…… !!!? 空いてる!! その日、メッチャ暇してるから!!!」
小町先輩は慌てながら叫んだ。
「じゃあ、バレンタインデーのお返ししたいので、良かったらその日、部室に来てもらえませんか?」
「うん、絶対に行く!!」
「良かったです。きっと喜んで貰えると思います」
「おっ!? やけに自信たっぷりじゃないか~ ふふふ、この秋田小町さんが見定めてあげようかな」
小町先輩はドヤっている。
その時、突然ドアが開き星野さんが部室に入ってきた。
「米倉君久しぶりーっ!!」
「星野さんは今日はダンスの練習は休みって事?」
「そう、久しぶりのオフなんだよね。それでいるかなって思って来たんだけど…… えっ!? 嘘? なんで生徒会長がいるの???」
「何を驚いているんだよ。小町先輩とは仲良くさせて貰っているだけだから。星野さんこそ失礼な態度をとらないようにしてくれよ」
「えっ!? 米倉君、その子は誰? 何かやけに親しくない?」
二人の様子を見た感じでいえば、どうやらお互いに面識はなさそうだった。
それは良いのだが、何故か小町先輩の声が怖い気がするのは俺の勘違いなのだろうか?
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