第4話 秋田先輩とオムライス

 部室には持ち込んだ食材を冷蔵庫に保存していた。

 持ち込んだ日をメモしているので、何日経過したかはすぐに分かる。

 今ある材料でオムライスは作る事が可能だ。


 まず最初に用意したのは鶏肉と玉ねぎ、両方を細かく刻み始める。

 次に油を浸したフライパンに火をかける。

 まず最初に入れるのは鶏肉で火を通しながら肉のうま味を引き出していく。

 しっかりと鶏肉に火が通った事を確認した後、玉ねぎを投入する。

 塩こしょうで味を調えながら肉汁を玉ねぎにしみ込ませていると、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐり始めた。

 この香りが俺はとても好きだった。


「うわぁ~ 美味しそう」


 秋田先輩の声が後ろから聴こえてきた。

 俺が秋田先輩に視線を向けると、秋田先輩は子供の様に夢中でフライパンに魅入っている。

 しかしその様子を俺に見られている事に気づくと、目を見開いて耳を赤く染めた。


「なっ、なんで私を見てるのよ!? 米倉君は作っている料理を見なさい!! もし焦げちゃったらどうするのよ!」


「そうですね」


 調子が乗った俺は鼻を鳴らした。


 次にケチャップを投入する。

 投入した瞬間心地よい音が弾け、ケチャップの焼ける香ばしい香り広がった。

 俺はケチャップの酸味を飛ばす為に長めに炒める様にしている。

 その間に冷凍保存していたご飯をレンジで解凍した。


 解凍したコメを鍋に入れ、ベースがしっかり混ざる様にかき混ぜながら焦げ目のが付く位炒めていく。

 焦げ目の部分がアクセントになり、食べていても飽きなくなる。

 これでチキンライスの完成だ。

 完成したチキンライスは事前に皿の上にもりつけておいた。


 次に俺は生卵を取り出しボールに落とすと、塩こしょうを混ぜてとき始めた。

 白身が無くなる位混ぜるのに十秒ちょっと位だろうか?


「本当にすごい手慣れているわね」


 秋田先輩は感心した様子で魅入っている。


「一応、真面目に料理部やってたんで」


「ごめんなさい。そんなつもりで言った訳じゃなかったの」


「最近は男性でも料理を作ったりしますからね」


「そうよね。でも腕前を見て、出来上がるのがとても楽しみになったわ」


 もう秋田先輩は俺を疑う素振りを見せてはいなかった。

 口調も少しづつ砕けた感じになっている。


 卵をとき終えた後は、オムレツ用の小さめのフライパンに火をかける。

 敷いた油に卵を一滴落としてフライパンの温度を確認した。

 フライパンも温まっていたので、卵を流し込む。フライパン一面に広がった卵を数秒だけ箸で潰した後、フライパン返しを使い卵の端から順番に折っていき、綺麗なオムレツを作り上げた。


「えっオムレツ作っちゃったの? オムライスでしょ?」


「ふっふーん。待っててください」


 俺は皿にもっていたチキンライスの上にオムレツを載せた後、オムレツの真ん中から包丁でキリ目をいれた。

 すると半熟に仕上げたオムレツが真っ二つに割れ左右に広がっていく。

 そして半熟の中身がトロッと流れ出しチキンライスを包み込んだ。


「すっごーい。 本当にお店みたい」


 秋田先輩は口を手で隠しながら驚いていた。


「練習すればこの位すぐに出来ますよ」


 その後、俺はもう一つ同じ物を作り上げる。

 後から作った温かい方を秋田先輩に差し出しケチャップを手渡す。


「お好きな量を掛けてから召し上がって下さい」


「うん、ありがとう」

 

 先輩はオムライスの上に【いただきます】と書いていた。


 俺も併せて【どうぞ!】と書く。

 互いに見せ合い二人で少しだけ笑い合った後、早速試食へと入った。


 スプーンを突き刺すと半熟の卵がチキンライスによく絡まり、とても美味そうだ。

 そのまま口に放り込むと少し焦げたチキンライスと弾力がある鶏肉、そして甘みを含んだ玉ねぎが絡み合い口の中を幸せにする。


「うんまぁーーい。本当に凄く美味しいよ。米倉君、君は本当にプロになれるんじゃない?」

 

 秋田先輩は両手を胸の前でガッツポーズを作り、体を震わせながら感激してくれていた。

 その後も実に美味しそうに、スプーンを口に運んでいる。

 その嬉しそうな姿を見れただけで、俺も満足で報われた気持ちになった。


「喜んでもらえて良かったです」


「旨い、美味い。美味ー!!」


 普段の優等生の素振りとは違って今は無邪気でテンションが高い。

 普通の女子高生はこうあるべきといった感じだ。

 あの凛とした姿からは想像もできない歳相応の姿。

 そのギャップもまた可愛らしいと俺は感じた。


 オムライスを食べ終わった時、俺は秋田先輩の顔を確認した。

 頬の文字は綺麗に消えており、今は何も書かれていない。

 欲しいものが手に入り満足した証拠なのだろう。

 その後、俺達は二人で片づけを行った。

 俺は大丈夫と言ったのだが、秋田先輩が絶対に手伝うと言って引いてくれなかったからだ。


「米倉君、またごちそうになってしまったね」


「いえ。これは今朝のお返しなので、貸し借りは発生しませんよ」


「あっそうか。そうだったね。うん、わかった。それじゃ私はこれで帰るね」


 そう告げると秋田先輩は部室から去って行った。


「今日は色々あったな、まさか父さんが言っていた運命の人が秋田先輩だったなんて…… しかし俺には高嶺の花過ぎる。これっきりで終わりだろう」


 俺も暗くなる前に学校から飛び出し家路についた。

 家についても秋田先輩の事は父さんに話さなかった。


 俺だけの秘密で、良い思い出として残しておく。

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