ジェムソン スタンダード ④
つられてきた場所は、町の外れにある小さな木造りのカフェであった。
三田百合とたびたび通っている墓地の近くにあり、他の住居とあまり見た目が変わらないことから初見で見つけるのは難しい、そんな隠れ家的カフェであった。
たまきは迷いなくカフェに入り、一番奥の席に座る。僕はその向かいに。
「お兄さんお金は?」
道中お互いに黙ったままだったが、僕が席に着くのを見計らって彼女は口を開く。
「あるよ。そんなに多くはないけど」
「なら、奢って」
「分かったよ」
カフェくらいの代金なら僕でも奢れるだろうと安請け合いする。
すると、たまきはメニュー表を持って選び始める。
あいにくメニュー表は一枚しかないから、僕はそんな彼女を眺めていることしかできない。
少し待っていると、彼女はメニューを机へ置く。じゃあ、次は僕が…
「すみません~ 注文良いですか?」
僕の見る時間は無しですか…
少しくらいは見られるかと、急いでメニューを取ろうとするが、彼女がバシッと手をその上に置く。力を入れてその手を振り切ろうとするが、彼女は視線をそらしたままその手の力を緩めない。暫くの間、格闘を繰り広げていると女性の店員が来てしまった。それと同時にたまきは手の力を緩め、何もなかったかのように注文を始める。
「ロイヤルミルクティーにサンドイッチ、あとチーズケーキで」
店員の視線が僕へと移る。でも、まだ何も決まっていない。
呼んでおいてまだ決まってないというのは気が引けるし…
そう思っていると壁におすすめと書かれた商品がある。もう、半ばやけになってそれを頼む。
「おススメのアイリッシュコーヒーでお願いします」
「未成年ですと、ノンアルのカクテル風になりますけれど大丈夫ですか?」
「えっ? あ、はい」
「畏まりました。それでは、少しの間お持ちください」
店員は一礼して下がっていった。
相変わらず、たまきは視線を僕からそらしたままだ。
ため息つきたくなる気持ちを抑えて、暇をつぶすためにメニューを開く。
「マジか…」
開いてすぐに後悔した。
このカフェは木造りで落ち着いた雰囲気があり、内装もおしゃれだ。
そこで分かるではないか…
ここは、いわゆるちょっと高めなカフェであった、だから、メニューのそれぞれが結構値段が張る。急いで財布を取り出して中身を確認する。中には野口さんが3枚、それと小銭がそれなりに。これなら足りる…よね? 怖くて足し算できない…
財布とメニューを何度も見返していると、クスクスと笑い声が聞こえて来る。
チラッと顔を上げると、先ほどまでの硬い表情は少し緩んでいた。
「たまき、そろそろ話をしてもいい?」
恐る恐る尋ねる。だが、尋ねると同時に彼女の表情は曇りだす。
「まだ…ダメ」
ダメですか…、いや彼女は『まだ』と言ったのだ。何時かは聞く気があるということではないだろうか。そう信じて、これ以上罪を重ねないようにしようと決意する。
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