ジェムソン スタンダード ③
「で、何しに来たんです?」
男、いや教頭先生だったらしいがその話を終え、二人川沿いの道を進んでいると、
たまきから少し毒のある口調で問われる。彼女の表情は冷たいもので、心底僕を嫌がっているような感じ。そんな顔を向けられて心の中がずきっと痛む。
でも、この痛みは因果応報。僕が、してしまったことを起因として向けられた表情なのだ。
逃げずに受け止めないといけない。
「今日は、君に話があってきたんだ」
歩を進める彼女の前に立ちはだかって、目を突き合わせて伝える。
すると、彼女は目をそらすようにして
「何も話はありません。お兄さん言いましたよね? 私は邪魔だって。だから、私はお兄さんの邪魔をしないようにしていたのに、なんでお兄さんが来るんです? それも、不審者みたいに疑われているし…」
「えーっと、不審者みたいに疑われたのは運がなかったというか…あの先生のせいというか…」
思わぬ出来事で話が複雑になってしまっている。この際、さっきの事件は無かったことにしたほうがいいかもしれない。
「今日ここに来た目的は、君に謝るため」
僕が謝ると言うと、彼女は僕の前から逃げようと、その場から駆けて行こうとする。
でも、僕は体を盾にしてそれを妨げる。僕の行動を予期していなかったのか、そのままたまきはドンっと僕の胸へと飛び込んでくる形となった。
「聞いてくれないかな? この前みたいにただその場の流れで謝ろうとしているんじゃない。
本当に悪いことをしたと思っているんだ。だから…」
胸の前にいる彼女は、顔を下へ向けたままだ。そのせいで表情が見えない。
このまま話していいものなのだろうか…と決めかねていると胸をドンと叩かれる。
それも何度も。たまきが手をグーにしてドンドン、胸を叩いてくる。
力はそこまで入っていないから、全く痛くない。そんな優しさのある攻撃を何度も繰り返す。避けようと思えば簡単に避けられる。でも、これは絶対に避けてはいけない。
攻撃はしばらくすると止んだ。そして、彼女はようやく口を開く。
「ついてきて」
「へ?」
いつものように敬語でないことや、いきなり話が吹っ飛んだことから変な声を上げてしまう。
「だから、ついてきて」
「分かった。どこでも付いていくよ」
彼女の発言の意図は分からない。でも、それが彼女との関係を取り戻すために必要なことならばと思い、素直に従う。
「こっち」
彼女はいつの間にか、僕の懐から抜け出して僕の前へ。
そして、僕の服の裾を持ってそのまま歩き出す。
僕は何も言わずにその後を付いていくことにした。
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