ジェムソン スタンダード ②

「ちょっとそこの君!」

 ぼーっと待っていると、いきなり声をかけられる。

「へ?」

 振り返ると明らかに先生と思わしき強面の男がそこいた。その手にはライターと水色の小さな箱がある。恐らく煙草を吸いに校外に出てきたのだろう。

「君は…うちの生徒じゃないよね?」

 眉間にしわを寄せて僕を問いただす。もしかして、怪しい人に思われている?

「はい…一応高校生です」

「なら、こんな時間に何しに来たんだ?」

「人を待っていて…」

「誰だ? クラスと名前を言ってみろ」

 この人完全に僕を疑っている…まぁ、こんな時間にふらふらしている僕が悪いのかもしれないけど…

「クラスは分かりませんけど、三年生で中町たまきさんに用があって…」

「ふむ」

 男は値踏みするような目つきで僕を観察する。

恐らくまだ疑われている。どうすれば、信じてもらえるのだろうか…と考えていると

キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が鳴り響く。

授業の終わりのチャイムだ。もう少しすればたまきが来てくれるはず。

彼女と知り合いだと分かってもらえさえすれば、この疑いも晴れるはず。

でも——————

「君、少し話を聞きたいから中に来てくれるかな?」

男は僕をここから遠ざけたいようだ。でも、そうなると…

「すみません、それは出来ません。どうしてもたまきに会わないといけないんです。だから、ここから離れるわけにはいかないんです!」

「ダメだ。中へ来い!」

 どっちも引かないから口論のようになってくる。

その声を聞きつけてか、段々と授業を終えた生徒がよってきた。

「いい加減にしないか! 中へ来なさい!」

 男は声が大きくなっていく、それに比例して周りの生徒も多くなる。

これじゃあ、たまきを見つけることなんて…

男は僕の手を掴んで無理やり中へ連れて行こうとし始める。

「たまき! たまき!」

 僕は必死に彼女の名前を呼ぶ。

騒ぎを聞きつけたのか、他の大人も走ってきている。これは、もう無理かも…

そう思いかけていた。そんな時—————


「待って!」

 

 聞きなれた声が響き渡る。

 その声に周りの視線が一気にそこへ集まる。

「その人は私の知り合いです。離してあげてください!」

 周りの視線など気にも留めずに、びしっと言い放つ。

その言葉に、僕を掴もうとする手が止んだ。

「中町、ちょっといいか?」

 先ほどまで僕を怪しがっていた男がたまきにそう言った。

「はい」

 たまきは男の圧に屈せず、毅然と答える。

「君も来るんだ」

「………………はい」

 

 この後、二人で応接室のようなところに連れていかれ、30分くらいありがたいお話を聞く羽目になった。

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