キリン秋味

「酒の大沢」

 のお盆は死ぬほど忙しかった。

はだか祭りの時や、花見の時期などが可愛らしく思えるほどの客入りであったのだ。

 暑さを和らげるため、帰省の手土産のため、大人数で集まって飲み会をするため、休日にのんびりと晩酌するため、送り忘れていたお中元を送るため、いつもの買い物をするためになど、いろんな目的のお客さんが重なり店の中は朝から晩までごった返していた。

 だが、その波はもう過ぎ去った。今ではいつも通りに戻っている。

 残暑と呼ばれる時期が目の前に差し迫った今日。今頃学生たちは、夏休みの残りの日数を指折り数えて悲しい気持ちになっているところだろう。

 気温はお盆を過ぎたところで相変わらず。40度近い気温の中、僕は外にいる。

炎天下の中、自殺行為だと僕も思う。でも、お盆で商品はほとんどなくなってしまっている。これじゃあ、店をやっている意味がない。下手したらクレームが来るだろう。だから、沢山の荷物を仕入れたわけだ。で、その商品たちをいち早く店に入れないといけないからひたすら動き続けていた。

もっと涼しい時間にやればと言う意見もあるかもしれない。でも、この暑さの中で酒類を荷台に置きっぱなしにすると、急速にいたんでしまう。ワインなどは特に。だから、すぐにでも冷えた店の中に入れないといけないのだ。人間よりも酒が優先される状況… 少し、いや、とても気に入らないが、仕事だから仕方がない。死なない程度に頑張ります…

話が変わるが、僕は盆前にある決断をした。

それは、「12月9日」までにこれからの人生を決めるということだ。

これからの人生なんて言い方をすると少し大袈裟に聞こえるかもしれないが、それくらいこの選択は僕の人生を大きく左右すると僕は思っている。

で、そんな大事な決断なのだから、今世話をしてくれている天音に報告するべきだと考えた。

母にはあの後しっかり伝えた。でも、天音には今の今まで伝えられていない。

電話では伝えられるけれど、顔を合わせているとどうしても話しづらい。それにお盆の忙しさも加わって、忙しいからいいやと自分を甘やかし続けていたのだ。

 言い訳にしていたお盆は終わった。納品が多いだけで今日は別に忙しくない。もしかしたら探せば何か理由が見つかるかもしれないけれど、残り時間は刻一刻と迫っている。

「今日、言おう!」

 朝一、そう決めていた。

でも、上手くいっていない…

 でも、それは僕のせいだけではないと思う。

だって、天音は少し前からずっと上の空状態なのだ。仕事の時はそうではないのだが、それ以外の時は、何か考え事をしているのか呼びかけても返事が返ってこなかったり、適当な返事が返ってきたりする。こんな状態じゃ伝えられるわけがないじゃないか…

早くいつもの天音さんに戻ってよ~


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