オリオン・ザ・ドラフト 完
そのあと一時間くらい雑談などを話して、見学を終えたアンケートに答えているといきなり「じゃあ、上へ行こうか」と言われる。ついて上の大教室に行くと、そこにはギターやドラム、キーボードが並べられていた。
「何があるんです?」
さっき来た時はこんな風に楽器は無かった。今から何が始まるのだろうか?
「うちには軽音部があるんだ。ちょうどいいことに、今日練習日だから君にも見せてあげようと思ってね」
「鵜飼やっと来たのか!」
「えっ?」
大浦と話していると、部屋に成美が入ってきた。
「やることあったんじゃないの?」
「それが、これよ!」
ニカっと笑顔を作りながらマイクを掲げている。
「お前に演奏聞かせるために準備していたんだよ」
「マジか」
「じゃあ、その辺に座ってくれや」
言われるがまま適当に腰掛ける。
それから程なくして、数人の生徒が中に入ってきた。
そして演奏が始まる。ボーカルの成美を筆頭にどの楽器の子もすごく練習しているのが聞いているだけで伝わってくる。そのおかげか知らない曲でも楽しむことが出来た。
そのまま三曲聞き終えると、成美以外の生徒がはけていく。それと同時に隣にいた大浦が成美の隣へ移動する。そして、成美はこういうのだ。
「最後は鵜飼にぴったりな曲を、俺と匡先生で歌うから聞いてくれや!」
見学を終え、あっという間に天音にいない大沢に帰宅した。
そして、すぐにノートバソコンに電源を入れる。これは、兄のお下がりで勉強に使うようにと親が送ってくれたもの。天音に頼らずに好きな時に調べ物が出来るのが凄く便利だ。
調べているのは今日、最後に二人が演奏してくれた曲。
歌っておきながら二人は曲名を教えてくれなかった。だから、それが気になって仕方ない僕は、覚えている歌詞を頼りにその曲を調べたのだ。
その曲はすぐに見つかった。そして、思わず笑ってしまった。
「カンパイの唄」それが、二人が歌ってくれた曲の名前。
『オリオンドラフト』と言う沖縄で有名なクラフトビールの宣伝に使われた曲のようだ。
お酒に関する曲だから、僕にぴったりなのだろう。
中々に安直な考えだ。それで笑えてきたのだ。
今日は、見学に行けてよかったと思う。
僕が思っていたような怖いところじゃなかったし、自分のやりたいことを真剣に取り組むにはいい場所だと思えた。成美が野球以外の楽しみを見つけられていることも知れたのも良かったと思う。
それと、大浦がふと発した言葉に新たな可能性みたいなものが見えてきた。
僕は、学校に復学するなら酒の大沢を辞めざるを得ないと考えていた。
でも、あそこには「働きながら通っている人」もいるという。
だというなら僕もここで働いたまま、高校に復学することもできるんじゃないかって思ったのだ。
これも一つの選択肢。
アサヒ高等学校に見学に行くことで見つかった選択肢。
何が正しいなんか分からないけど、いろんな選択肢をみて、僕に一番ぴったりな選択肢を選べたらいいなと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます