オリオン・ザ・ドラフト

「酒の大沢」

の最寄り駅から電車に揺られて三十分。

 酒の大沢の周りの物寂しい空気がいつの間にか騒がしくなっている。

 遠いようで案外近いその場所に僕と、この前再開した成美俊太郎の二人で訪れていた。電車の中で薄々思っていたが、電車を降りてみて改めて思った。

「こんなところに本当にあるの?」

 周りにあるのは軽く10階はあるだろう高層ビル。

 それが所狭しと並んでいる。どの建物も綺麗で真新しく、一面ガラス張りの建物もある。

 それに加えて多くの人が入り乱れている。

 優雅に歩くOLさん、電車の時間が危ないのか全力ダッシュのサラリーマン。

茶髪のお兄さんに、下を履いてないようにみえる短いズボンをはいたお姉さん。

いろんな人がたくさんたくさん。

 ここは「酒の大沢」がある田舎とは全く違う。

都会。それも大が付く都会。大都会なのだ。

こんなキラキラピカピカガヤガヤした街にあれがあるんだろうか?


 時を少し遡る。

 七夕が無事終わり、中町たまきと作った笹を模したマスキングテープが貼られているコルクボードを片付けていると店主の天音から「急だけど、明日から三日間休みにする」と言われたのだ。

 訳を尋ねると、天音が高校時代にお世話になった人がお亡くなりになられたそうだ.

葬式の会場がこの店から相当離れているところで、日帰りはとてもじゃないが無理。

それに、仲の良かった友達も何人か参加するため、葬式の後故人をしのんで色々話したいからと余裕を持って休みを取るみたいだ。

運がいいことに明日からの配達はほとんどなく、急を要するところは先に持っていった。そのため三日休んでもお客さんに迷惑がかからない。僕がいることだし、店は開いたままでもいいのではと聞いたが、責任者がすぐに駆け付けられない時に何かあってはいけないと店も休みになった。

 ほとんど休みのない天音にちょうどいい休憩だと思い、快く見送った。

でも、急に予定が三日も開いた僕は何をすればいいんだろうか?

 

 やることが無いなら勉強だと思い、朝からたくさんの参考書を担いで図書館を訪れた。

 少し勉強して気晴らしに中庭に出ると、そこにはちょうどベンチで横になって休憩中の成美がいた。

「成美おはよう~」

「うん? 珍しいな鵜飼がこんな時間からいるなんて」

「ああ、それは…」

 店が休みになって暇なことを伝えると、寝転がっていた成美がガバーッと起き上がり

「なら、行くか!」

と言ってきたのだ。

 こうしてその翌日僕と成美は、彼の所属している通信制高校を目指していた。


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