バランタイン ファイネスト ⑨
「ジョージ・バランタインがウイスキー作りを始めたきっかけって何だと思う?」
きっかけ? その問いの答えを考えているとふと思考がそれていく。
僕がここに来たきっかけは母のあれだったな。やられた時はすごく怖かった…捨てられるのかと思った…でも、それが無かったらこんな生活はなかったのかもしれないな。
僕が、答えないからか天音はそのまま答えを言う。
「きっかけは『再会』だよ」
『再開』。それは最近僕も経験したこと。
「アンドリュー・アッシャーっていう友人に再開したことがきっかけになったんだ。
ヴァッテッド・モルトウイスキー(同じ種類のウイスキー同士を混ぜ合わせて作るウイスキー)を考案したアンドリューの話を聞き、ウイスキーへの興味が強くなっていったんだ。次第にウイスキーの虜になっていった。とうとう自分が経営していた店を長男に任せて、ウイスキーづくりに精を出すようになっていく。そうして、出来たものが世間で段々評判になっていき、誰でも知っているウイスキーになっていったんだ」
「じゃあ、もしアンドリューに再開してなかったら、バランタインがなかったかもしれないんですね」
「だな。『再開』がそれほどまでに人生を大きく左右することもある。だから、お前も自分の『再開』を大事にしてみないか?」
「えっ?」
「せっかく遠く離れた地で昔のクラスメイトと出会えたんだ。凄い奇跡だと思わないか? それに、昔は嫌われていたかもしれないけど、今はそうじゃないんだろ?」
「どうなんですかね…」
「嫌いな奴に自分の秘密なんて話やしないよ。少なからず仲良くなりたいって気持ちが相手にもあるはずさ。だからさ、次はお前が相手に心を許してみたらどうだ? 変に思われたっていいじゃないか。自分がやりたい道を歩いているんだろ? 自信を持てよ」
この半年、僕は全力でやってきた。今までの人生で一番頑張ってきた。
だから、天音の言うとり胸張って、自信持っていればいいんだ。
「きっと、お前にも何かがあるはずだ。小さな事かもしれない。でももしかしたら、すごく大きなものが手に入るかもしれないんだぞ。みすみす捨てるのは勿体ないだろ。だからさ、頑張って一歩踏み出せ。一歩が出ればあとはなるようになるからさ」
ジョージ・バレンタインのように一大事業が手に入るようなことはたぶんないだろう。でも、小さなこと。例えば友達とか。
それができるだけでも充分すぎるではないか。
「明日、休憩少し長めに下さい!」
「おう」
天音はニカっと笑顔を浮かべて返事を返した。
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