バランタイン ファイネスト ⑧
成美から逃げてしまってから、図書館に行きづらくなってしまった。
図書館に行くと彼に会ってしまう。でも、行かなければ会わずに済む。
今日は辞めておこう。って一日目。
二日目は今日もいいかな。三日目は昨日も休んだことだし。
四日目は今週くらいは。五日目は……………………………
そんな風にしていたらあっという間に一週間が過ぎていた。
行ったほうがいいのは分かるけれど、適当な理由を絞り出して結局行かない繰り返し。日が経つにつれて行きにくさが増加していく。
折角でき始めていた勉強の習慣も綺麗さっぱり消えてしまっている。
そんな僕に天音の雷がとうとう落ちた。
「大輔! 勉強するから休憩増やせって言ったよな?」
「はい…」
「ならお前は今何しているんだよ!」
今は長くしてもらった休憩時間。さっきから何もせずぼーっとドラマも再放送を眺めている。
「………………」
「どうしたよ。三日坊主か? 初めの時の気持ちはどこ行ったよ?」
「やらないといけない思いはあるんです…でも…」
ぶつぶつと独り言のように言っていると、天音が隣に腰を落とす。
「何かあったなら相談のるぞ」
怒りを無理やり引っ込めて、僕に寄り添おうとしてくれている。
僕は今回のことを天音に話していなかった。店に関係ないことまで天音に世話をかけたくなかったから。でも、よく考えれば今更か…
「図書館で中学の時のクラスメイトに会ったんです」
「ほう」
「成美って言うんですけど彼は高校進学と同時にこの辺に引っ越してきていて………………」
とりあえず一から十まで天音に話した。
勝手に病気の事や編入したことを話すのは悪いと思ったけれど、全部話さないとうまく伝わらなそうだから、全部話した。
「彼は今、通信の高校に通っていて……… それで、僕は何しているか聞かれたんです。
でも、僕は何も言えなかった。同年代が今の僕のことをどんな風に思うのか考えたら何も言えなかった。そのまま逃げてしまったんです…」
「なるほどな、それで気まずくなってずるずると行けなくなっているわけか」
「はい……」
「ちょっと待っていろよ」
そういうと店の方に天音は歩いていく。
多分いつものやつだ。
何か僕を焚き付けるようなお酒があるんだろう。
戻ってきた彼女の手には丸みを帯びた直方体の瓶が握られている。
確かあれは、『バランタインファイネスト』
有名なスコッチウイスキー。ウイスキーが初めての人にも飲みやすいと評判。
僕が二十歳になったら飲んでみたいと思う一本だ。
「待たせたな。今日は、バランタインの創業者『ジョージ・バレンタイン』についての話だ」
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