鍛高譚 ②
目の前にいる女性は、この店の店主天音さん。
私の居場所を作ってくれた緒本人…
感謝しているけど、どうしても苦手。
私と天音さんは根本的にタイプが違う。
私とは違って、天音さんは一人でも大丈夫って感じの強さがある。
私の寂しいって気持ちなんか分かってもらえないような気がする。
そのせいか、どうしても苦手。
この人の近くにいると私がちっぽけに見えるから本当に苦手。
あと、お兄さんが天音さん、天音さんって言っているのも…
あっ、これは無しで!
そんな私の気持ちなんて知らず天音さんは話しかけてきた。
「たまき久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「悪いな。大輔は客の荷物持ちに外出てるよ」
「そうですか…」
「もうすぐ帰ってくると思うけど、待つか?」
どうしよう…
帰っても一人だから、待つのは全然かまわない。
でも、それまでこの人と二人か…
絶対に気まずくなる。
でも、今日もお兄さんに話したいことがあるからな~
しばらく葛藤して決めた。
「宿題やって待ちますね」
「そうか」
いつもの定位置に腰掛ける。
ちょうどいい。明日までにやらないと宿題もあることだし。
鞄からプリントを取り出して取り組んでいく。
それからしばらく気まずい時間が続く。
すぐに帰ってくると言っていたお兄さんはいつになっても帰ってこない。
そればかりか、さっきまで遠くの方で作業していた天音さんが、私の近くで別の作業を始めたのだ。単純なハンコ押しをやっているからか、手持ち無沙汰に見える。
「なんの宿題やっているんだ?」
暇つぶしとばかりに話しかけてきた。
「えーっと、公民の問題です…」
「公民か懐かしいな。難しいのか?」
「えっ?」
「いや、さっきから全然進んでないからな」
隣に天音がいるせいで、集中できていなかったからなのだが…
「そ、そうですね。ちょっと面倒なんですよ」
誤魔化すようにそう答えていた。
「どれどれ」
天音さんが私の隣に腰掛ける。
それからプリントを覗き込んでくる。
「そんなに難しいか? この問題」
今私が前にしているのは、流通についての問題。
その中のとある問題、
「地産地消を目的として作られたものを調べろ」
というものだ。明日、調べた内容を授業で発表することになっている。
小学生でもできるような、調べればすぐに解ける簡単な問題ではあるけれど、隣に天音が来たことで注意がそっちに向き、この問題で止まってしまっている。
あなたのせいでやれてません、なんて言えないからどうしたものかと考えていると、ふと光明を見出す。この気まずい雰囲気を少しでも和らげられそうな方法が。
「調べるための道具が今ないんですよ~ そこで何ですが、地産地消に関りの深いお酒があったら教えてもらえませんか?」
もちろん携帯電話はカバンの中に入っている。
道具がないなんて嘘八百だ。
でも、お酒のことを聞いている間は、変な沈黙にならないで済む。
お兄さんが帰ってくるまでの時間稼ぎになり、ついでに宿題も終わる。
流石私、あったまイイ!
そんな風に考えている間に、天音さんは立ち上がり瓶を一つ持って来た。
「地産地消で有名なのはこれかな。鍛高譚って知っているか?」
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