ザ・プレミアム・モルツ ④
「寿司職人? ってあの回転寿司とかの板前さん?」
「そうだよ」
「えっ…でも兄さん通っている学部って…」
「医学部だよ」
そう医学部なのだ。医学部はお医者さんやその関係の技師などになる人が行くところのはず。『夢』はてっきり医者になることだと勝手に思っていた。
「ならどうして、医学部なんかに」
やりたいことがあるなら、それが実現できそうな学部や学校に行けばよさそうなものなのに…。
「俺はさ、自分で言うのもなんだけど成績がすごく良い。学校の一位は楽々とれたし、模試の順位も相当上だった。そんな俺が寿司職人になりたいって進路調査票に書いたことがあった。そしたらどうなったと思う?」
僕もそれなりには成績が良かったが、兄のようにずば抜けたものではない。
兄と同じ立場になったことのない僕にはその答えが分からない。
何も言えられずに返答を考えていると、それを答えだと分かったのか兄は話を続ける。
「勿体ないだってさ。君の成績ならもっと上が狙える。いや、狙わないといけない。
才能があるのに、それを無駄にするのはあとで絶対に後悔する。だから、後悔しないようにもっと上を目指すんだ。って言われた。今考えれば、高校の進学実績のためにそんな風に言っていたのだと分かる。でも、その時はまだ大人の言うことは全部正しいって思っていたから、自分が「寿司職人」になりたいって思うことは間違いなんだって自分を言い聞かせて、ひたすらに上を目指したんだ。でも今は、すごく後悔している。大輔みたいにさ、自分の道を進もうと思えたら、どんなに楽しかっただろうって思うんだ」
その言葉の通り兄は上に進み続けた。
学校の成績、部活の記録、人としても。
すべて一番と言っても過言が無い。
僕は心のどこかで、兄は完璧超人なのだと思っていた。
でも、そうじゃない。
兄は僕と何ら変わらない未来に悩む一人の子供に過ぎないのだ。
「今からでもやってみればいいんじゃない?」
「ダメだよ。僕のために数百万円ものお金を親が払ってくれているんだよ。
そのお金全部無駄にして他のことやりたいなんて、口が裂けても言えない。
僕はもうこの道を進むしかないんだよ」
兄はもうこのまま突き進む決意を固めているようだった。
でも、その決意はあきらめのような物で、その決意を僕はどうしても認めたくない。
「ねぇ、兄さん」
そうだ。いい人がいるではないか。
分野は違うが同じような道を必死に歩いた人が。
『笑顔をつくれる料理人』を目指して、駆け抜けた天音ならきっと兄に何かを与えてくれる
はずだ。
「天音さんに会ってくれないかな?」
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