竹鶴ピュアモルト
「酒の大沢」
今日の、客入りはゼロであった。
転売目的で来る怪しい人たちすら来ない。
最近では、ワンカップお兄さんや三田百合が来店してくれていたから、誰も来ないことなんてなかった。でも、今日は来なかった。
あの日以来、二人とも来ていない。たまたまかもしれない。
でも、もう来ないかもしれない。
それは、すごく悲しいことだが、今日に限ってはありがたかった。
こんな顔見せられないから。
天音が僕の願いを聞いて『自分の夢』を教えてくれた。
それと、同時に今までのことも教えてくれたのだ。
だから——————
僕も彼女のように、思いをぶつける
「天音さん、お話ありがとうございます」
天音の問いかけに返事をするまでに、しばらく時間がかかった。
でも、そのおかげで話そうと決意をすることが出来た。
「ああ。それで、大輔は話す気になったか?」
「はい。天音さんのようにすごい話じゃないですけど……」
「構わないさ。お前のことを教えてくれ」
天音はしっかりと僕を見つめてくれている。
安心して話せそうだ。
「今悩んでいるのは、『僕に夢がない』ってことです。天音さんやワンカップのお兄さんにはあった将来の夢みたいなものが、ずっと僕にはないんです……」
天音は何も言わずに、合図地を返してくれている。
少しずつでいいという、彼女の優しさだろう。
「周りの人は輝いて見えて、僕は輝いてなくて…… 夢がないからか、何にも打ち込めなくて
楽なほうに楽なほうに進んでしまう。もしかしたら、夢があったら『あれ』にも負けずに学校にも通えていたかもしれないのに……」
口にしていると、目が熱を帯びてきた。
「なぁ、少しお前の昔話も聞かせてくれないか?」
一息ついていると、天音からの提案。
「いつのです?」
「いつでも、いいさ。私と会うまでのことを知りたいんだ。」
「分かりました。僕は———————」
あの時から、振り返らないようにしていた記憶。
思い出したくない記憶。
冷たい冷たい記憶。
とげとげチクチクとした記憶。
それを、少しずつ呼び起していく。
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