モエ・ド・シャンドン ⑤

 

 ゆうき君の母親は店に入ると僕と天音さんに頭をさげ、感謝と謝罪を述べた。

それから、いくつか質問するとそれに答えてくれた。

 答えてくれた内容は


・ゆうき君の父は単身赴任で、海外に行ってしまう。

・モエをよく飲んでおり、ゆうき君に特別なジュースと言っていた。

・無理してまでゆうき君のお願いを聞かないで欲しい。


 話し終えるとゆうき君が待っているからと言って、急いで家に帰っていった。

「良かったですね。ゆうき君のお父さん、何かあったわけじゃなくて」

「ああ」

 子供からしたら、単身赴任も十分一大事だが、僕たちが考えていたのはもっとどうしようもないことなのではと思っていたのだ。百合の家族や、天音の父のように。もう手の届かない所に行ってしまうのではと考えていたから、そうではないと分かって一安心だ。

 それに、天音の予想した「モエ」も的中であった。

でも、僕としては的中してほしくはなかった。

母親の頼みも相まって、雀の涙ほどもお金では買うことが出来ないことが、確定してしまったのだから。

「大輔、お前はどうしてあげたい?」

 どうしよう、どうしようと考えていると天音から問いかけられた。

「ぼ、僕は……」

 どうにかしてあげようと考えていたが、ゆうき君の母親から制止されその気持ちが揺らぎ始めていた。親が望んでいないことを無理に、他人がしてしまうのはありがた迷惑でしかない。

「お前がどうしたいかで決めればいいさ」

 天音は優しくそう言ってくれた。

 僕がどうしたいか——————————

 すぐに思いついた。一番したいことは


『ゆうき君の笑顔を守ること』


 父と離れ離れになって、悲しい気持ちになるかもしれない。

だからこそ離れ離れになってしまう前に、いい思い出を残してあげたいのだ。

「ゆうき君の願いを聞いてあげたいです。それと…できれば、母親の気持ちも汲んであげたいです。」

「分かった」

 短く返事をすると、店の奥から一本の瓶を持ってきた。

 緑色の瓶で、口の周りに金色のプラスチックの包装がされている。

それに、どこからか取り出した赤いシールを貼って、透明な袋を取り出して、中に入れてリボンで可愛らしくラッピングしてくれたのだ。

「そのきんちゃく袋から300円くれ」

 言われるがままに、きんちゃく袋の中身を数える。ほとんど全部使ってやっと300円になった。それを、天音に渡す。

「代金は貰ったから、これ持っていいてやれ」

 と先ほど包装した瓶を紙袋に入れて、渡してきた。

「場所は、その紙を見ていけば分かるはず」

 ついでに、小さな地図を渡してきた。

「連絡しておくから、行ってこい!」 

 最後に元気よく背中を押してくれた。

「行ってきます!」

 天音に負けないくらい元気に返事して店を出る。

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