第30話 不破と灰谷は船舶にて闘争する
船内から出現した
背負った新たなる武器である
「ガアァァツ!!」
童士は空中で姿勢を正し、両手に天星棍を握りなおす。
天星棍は正眼の位置へと構えられたように見えたが、そのまま童士は天星棍を大上段へと振り上げる。
童士の間合いに入った
甲板上の空気は凍結し、時間も止まったように感じられた瞬間………童士は天星棍を
『ズゥッ……パァンッ!!』
水を切り裂くような鈍い破裂音の後、そこに残っていたのは頭頂部から股間までを縦に斬り裂かれた、
縦に二つの部位へと別たれた
その時になって初めて、斬り裂かれた傷口からドス黒い体液が迸り始める。
『ドシャアッ…………』
真っ二つに裂かれた先程まで
天星棍を振り切った童士は、深き者どもの死骸をぼんやり見遣り、そして自身が握っている天星棍を見つめ、最後におまけのように切り裂かれた甲板の
「いやいやいやいや………鬼のお兄さん。
流石に……棒で斬撃を繰り出すんは反則やない?
何ぼ能天気な僕かって、そないな化け物じみた攻撃を見せられたら………かなり引いてしまいますよ?」
少し遅れて登場した彩藍が、真顔で突っ込むのも無理はない。
横たわる
そして打撃に因って斬り裂かれた傷口は、医療用の
「見てよこの切り口。
こんなことされてしもたら、僕みたいな
童士君は………ホンマに怖い鬼さんやねぇ」
呆れ果てた顔つきの彩藍に詰られ、童士も
「こいつは……凄まじいな…………。
俺は普通に、魚頭を叩き潰すだけのつもりだったんだぞ。
天星棍の初振りだったから、多少は力を込めて振ったんだが………こんなことが起ころうとは思ってもみなかったな」
まじまじと己の武器を見つめる童士、その眼に映る握り締められた天星棍には、
今回………被害者となった
「まだ慣らし運転の最中だからな、これからの攻撃では力の入れ加減の調整が必要なんだろう」
童士が独り言ちながら軽く天星棍を縦に振るうと、ヒュンッと素軽く空気を斬り割る音が聞こえるのみ。
「うむ、振り味は悪くないんだよなぁ。
握りもしっくり来ている、重みも
さて、どうした物かな?」
左手を顎にやり、右手は天星棍を握り締め、童士は憮然とした表情で深く思案を始めた。
「しかし……打撃でスパッと斬れてしまうのは………些か拍子抜けしてしまうな。
やはり打撃を頭に喰らわす時は『グシャアッ』とか『グチャッ』と云う感触がないと、爽快感が全くもって足りないんだよなぁ。
今度は片手だけで叩き付けてみて、感触の違いを確かめてみなければならないか」
以前よりも格段に、攻撃の威力と
「お〜い童士君……考え中でお忙しい所に悪いんやけど、後続が迫って来とりまっせぇ。
戦闘中にボヤボヤしとったら、
確かに彩藍の言う通り、後続の
彩藍は黒烏丸を抜き放ち、最前線に迫り来る
「あぁ………済まないな彩藍、コイツの実戦が初めてなもんで、ちょっとばかり勝手が掴めていなかったんだよ……とぉっ!」
ハッと我に還った様子の童士は、呑気な声を出しながらも動きは鋭く、手近の
第一陣の
「時に彩藍よ、ここから階段で二手に分かれているようだが………お前はどちらを選ぶ?」
童士は平然と戦力の分散の提案を、彩藍へと持ち掛ける。
「うん?
僕は下を狙いたいねぇ。
童士君は上で宜しいか?」
即答する彩藍に童士は、ニヤリと笑って応える。
「お前ならそう言うだろうと思ってたよ、それでは俺が上だな。
そうそう彩藍………船室のお宝に気を取られ過ぎて、敵に遅れを取るんじゃないぞ」
童士の忠告を受けた彩藍は、悪餓鬼のようにニッと笑い童士に返す。
「童士君も人が悪いなぁ、僕のことをご存知なんやったら敢えて聞かんでも良いやんか?
敵を殲滅しながらも懐は温まる…最高のお仕事やねぇ」
イヒヒッとタチの悪い笑い声を上げる彩藍に、童士は仕方のないヤツだと呟き、苦笑いで作戦行動の開始を告げる。
「それじゃあ、お前は階下の船室方面を………俺は階上の
二時間後にここで落ち合おう、遅れた方の
生きていればまた会おう」
フッと笑みを浮かべていつもの台詞を彩藍に向けて発すると、童士は階段を駆け上がって行く。
童士の背を見送りながら彩藍は、童士に向けていつもとは違う台詞を送る。
「童士君………キミだけは死んだらアカンやろ……………。
華乃ちゃんを悲しませんように、ボロボロになっても生きて戻っておいでや。
僕もポッケの中が一杯になったら、すぐに
去り行く童士の背中と足音に向けて激励の声を送った彩藍は、殺戮祭と収穫祭の二本立てを満喫するため、希望に満ちた輝く笑顔を弾けさせ……船内階段の急な段差を駆け降りて行ったのである。
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