エピソード51-26

ポケクリバトル会場 15:00時――


 意外な展開で決勝戦が終了し、勝者は蘭子たちのグループC『ギャラクティカ・ソルジャーズ』であった。


「へ?……勝ったの?」

「そう、みたいですね……」


 ユズルは首を傾げ、素子に聞いた。



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 会場からひときわ大きな歓声が上がる。


「優勝だ! お蘭!」

「やった……勝った、勝ったぞみんな!」



「「「「うおっしゃぁー!!」」」」



 テントの中で、蘭子たちは飛び上がって喜んだ。


「正直、ここまで上手く行くとは思ってなかったよ」

「デモ対戦で練習した成果があったんだろうぜ!」

「よくやってくれた……ユズル」

「お蘭さん。やっとユズルって呼んでくれたね?」


 お蘭は照れながら、ユズルの活躍を褒めた。


「決勝までよく耐えたな。これでメルクも満足だろう!」

「うん。公式に認定ももらったし、言う事無いよ」


 そんな事を話していると、ADがテントに入って来た。


「グループCの皆さん、優勝おめでとうございます!」


「「「「「どもー」」」」」


「早速ですが、時間が押している関係ですぐに閉会式を行いますので、皆さんステージにお越し下さい!」

「えっ!? ステージに上がるのか?」

「大丈夫です。顔はボカシ入れますので」


 お蘭は顔を見合わせ、メンバーに言った。


「みんな、ステージに上がろうぜ。な、イイだろ?」 


 普段目立つのを嫌う蘭子にしては、予想外の申し出だった。


「意外だな。てっきりお蘭は断ると思ったんけどな」

「アタイだって、そういう時もある」

「俺たちは構わねぇよ。な。ユズル?」

「私も。シズムちゃんは?」

「うん。全然オッケーだよ♪」


 どうやら満場一致だったようだ。


「よし! ステージに上がるぞ!」


「「「「おー!!」」」」

 



              ◆ ◆ ◆ ◆




献血カー内 15:03時――


 ソファーのあるVIP区画は、グループCの優勝に沸いていた。


「うほー! 優勝したー!!」

「プロ集団に勝った。お疲れユズル」


 姉たちが蘭子たちに労いの言葉を送った。


〈ほれみろ。ワシの言う通りじゃったわい〉

「嬉しそうやなメルクはん、念願の公式登録も出来て、感無量やろ?」

〈カナメには世話になったな。礼を言う〉


 画面の中のメルクが、カナメに頭を下げた。


「かまへんよ。自分がかかわったポケクリが公式に載るだけでも儲けもんやろ?」


 カナメはメルクに依頼され、『メルクリア・ノヴァ』のデザイン及びパラメーター設定諸々をやったのだ。


「何か始まるみたいよ? ほら」


 カチュアが画面を指すと、会場のステージにシロミたちが映った。


〔はい! と言う事で、『ポケットクリーチャー・ギルガメッシュ』制作決定記念企画、『ポケクリバトルトーナメント団体戦IN膜張』優勝は、グループC『ギャラクティカ・ソルジャーズ』の皆さんでした!!〕


〔わぁぁぁぁー!!〕


〔いやぁクロミさん、どの試合もハラハラしっぱなしでしたねぇ?〕

〔いや全く。気持ちイイ位に予想を裏切ってくれましたよ……〕


 ステージの脇で、ADがカンペを見せた。


〔ん? グループCの皆さんが、このステージに到着したようです〕

〔早速入って頂きましょう! 団体戦優勝、グループC、『ギャラクティカ・ソルジャーズ』の皆さんです!〕



〔わぁぁぁぁー!!〕



 ADの指示で、蘭子たちがステージに上がった。 


「プー! 蘭ちゃん、ガチガチに緊張しとんな」

「見て! ユズルよユズル!」

「モザイクが邪魔。テレビ映えするのにもったいない!」

「仕方ないですよ。匿名性を確保する事が規定なのですから」チャ


 モニターを見ながら、カナメたちは言いたい放題だった。


〔先ずは、おめでとうございます!〕

〔うーっす〕

〔改めてメンバー紹介をいたします〕


 シロミがメンバー紹介を行った。


〔リーダー、言わずと知れたレジェンド級使い! 『ツンギレ』さん!〕わぁぁ~!!

〔続いて、要所要所で小技が光っていました!『親指溶鉱炉』さん!〕わぁ~!

〔最後にやってくれました!見事に決勝打を放った『スパダリ』さん!〕きゃぁぁ~!!

〔レジェンド級ドラゴンに果敢にアタックしていましたフェアリー使い!『メリーバッドエンド』さん!〕わぁ~!

〔そしてお待ちかね! 初期レベルのペカチュウで格上を次々に血祭りに上げたパーフェクト戦闘マシーン!『自サバ女』さん!〕わぁぁぁ~!!


 名前を呼ばれると、右手を振って一礼するメンバーたち。

 何故かユズルとシズムに送る声援が、異常に大きかった。


〔では、軽くインタビューなどを……〕


 シロミが蘭子にインタビューを始めた。


〔リーダーの『ツンギレ』さん、勝因は何だったと思います?〕

〔んぁ? そうだな……初戦からイワオを使っていた事で、相手が油断していた所を上手く【進化】させた事だろうな、です〕


 蘭子は頬を指で掻きながら、照れくさそうにコメントした。


〔と言う事は、初戦からいつでも【進化】させる事が出来たのですね?〕

〔ある意味イワオは『保険』だったんだ。レジェンド級が出て来た時のな、です〕


 クロミがユズルにコメントを求めた。


〔さて『スパダリ』さん、実に痛快な締めくくりでしたね?〕

〔え、ええ。あんなに上手く行くとは、正直思っていませんでした。タハハ〕

〔これぞエンタメ! とばかりな惚れ惚れする展開。シビれました〕

〔そんなに褒めても、何も出ませんよ?〕きゃぁぁ~!


 ユズルは癖である後頭部を搔く仕草をしながら、照れ笑いを浮かべた。

 なぜか一部で黄色い声が上がった。


〔えー、この後は賞品の授与と、運営から閉会の挨拶です――〕


 その後は粛々と進み、団体戦の全プログラムが終了した。


「ふー、終わったぁ」

「ユズル、早く帰って来ないかな……」


 睦美はポンと手を叩き、ソファーでまったりしている面々に告げた。


「さぁ! お姉様! これからが本番ですよ! 遅れ気味なのでキリキリ働いてもらいます!」

「うへぇ……そうだった……」ガク


 薫子は顔を青くしてうなだれた。




              ◆ ◆ ◆ ◆




膜張メッセ コミマケ会場 駐車場――


 コミマケ会場にラプロス壱号機で乗り込んだレヴィたち。


〔この車の近くでイイのだな?〕

「ええ。その車からイベント会場に入るの。何らかのジャミングが掛かってるわね」


 そこでレヴィは少し考え、ココナに伝えた。


「大尉殿、あまり接近するのはマズいです。少し距離を取りましょう」

〔わかった。駐車場の端に停める〕


 不可視化の上、サイレントモードで移動しているので、周囲には全く気付かれる事は無かった。

 壱号機が着陸し、搭乗ポーズをとった。


 パシュー


 キャノピーが開き、ココナがコクピットから飛び降りた。

 同時にAPCからぞろぞろとモブ子たちが降りて来た。


「よし、到着したぞ! 早く目的地行くのだ!」

「大尉殿、ちょっと待って下さい! 先に五十嵐出版のブースに行かないとダメなのです!」

「ん? まだ何かあるのか?」

「頒布品を受け取り、クーポンをゲットしなければなりませんから」


 壱号機を離れ、五十嵐出版のある個人サークルのブースに向かう一行。

 五人から始まった作戦が、結局九人の大所帯となってしまった。


「これでは流石に目立ちます。三人の3パーティに別れましょう」

「わかった」

「リリィ殿に取り置きをお願いしてあります。このチケットを出せばブツを入手出来ますので」


 レヴィは歩きながら、取り置きのチケットを各人員に渡した。

 やがて献血カーの近くに差し掛かった。


「この車って、あのキャンピングカーでありますよね?」

「そう。リリィがロディに頼んで改造してもらったらしいわよ」

「へぇ。あ、向こうに団体客がうじゃうじゃいますね……」


 ルリが指差した方を見ると、いかにもな連中がたむろしていた。

 レヴィが時計を確認した。


「予定だと15:00時からイベントが始まるはず……バトルが長引いてるんでしょうか?」

「これはチャンスです! 早いとこクーポンをゲットしましょう!」


 ルリは興奮気味に一同に向かって言った。

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