エピソード51-22

ポケクリバトル会場 14:40時――


 準決勝前半をモニターで見ていた蘭子たち。


「おい、Aの連中『ブラッカラム』を投入してたぞ?」

「ソフト開発者が混ざってるんだ。そんなの簡単だろうな」

「おのれぇ……プラセボめぇ……」


 素子はそう呟いて右手を強く握った。

 素子はゲーム開発のチームにいるので、ポケクリの新作を担当する『プラセボ・ソフトワークス』に、少なからず因縁があるようだが……。


「スペック的にはウチの方が上なんだろう? 問題無いよな?」

「そんなの、さっきの戦いだけじゃ、わかんねぇよ……」


 驚きと困惑が入り混じったムードのテント内。


「落ち込むのは次の試合に負けてからですよ。ほら」 

「そう言う時は、ポジティブな方を取って下さいよぉ」

「あら、すいません……」


 素子が元気付けようと言った言葉が、余計重い空気になってしまった。

 ユズルは蘭子に聞いた。


「お蘭さん、次はブラム、ブラッカラムを召喚するの?」

「アイツは決勝まで温存がベストだったんだけどな……」

「グループDの連中だって、金に物を言わせてとんでもないMOD入れてるかも知れないぜ?」

「……そうだな。出し惜しみは止めるか……」


 ユズルが何か思い出した。


「あ! そう言えば! さっき言ってたのって、黒ミサ先輩の言ってた事でしょ?」

「おぉ、三回戦シードのヤツか。お蘭、狙ってみれば?」

「そんなの、狙って出来るんだったら、苦労しねぇよ」


 ユズルたちに言われ、口をとんがらせて拗ねる蘭子。


「撃墜数だけだと、シズムちゃんとユズルが上位になっちまいそうだな……」

「じゃあ、トドメをなるべくお蘭さんに任せる様にしよう。わかったな? シズム」

「うん、わかった♪」


 そんな事を話していると、シロミのアナウンスがかかった。


「それでは! 準決勝後半戦のスタンバイ、お願いします!」



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」




              ◆ ◆ ◆ ◆




献血カー内 14:40時――


 引き続き『ポケクリバトル団体戦』の生中継を見ている睦美たち。


「大体察しはついとったが、まさか準決勝で召喚するとはな……」

「ちょっとメルク! どうするのよ!」 


 準決勝前半でグループAが『ブラッカラム』を召喚した事で、薫子はノートPCのメルクに食って掛かった。


〈そう言われてものう。そいつらはプロなのじゃろう? 激レアなど造作も無いじゃろ〉

「何とかして! ユズルたちが負けたらどうするのよ?」

〈ま、問題無いじゃろ。あ奴つらは強い〉


 忍が割り込んでメルクに命令した。


「ゲーム本体に潜って、アッチのブラム、弱体化してきて」

〈無茶を言うわい。第一、そんな事で勝っても、あ奴らは喜ばんじゃろう?〉


「「ぐぬぬ~!」」


 ノートPCに文句を言っている姉たちに、睦美が声をかけた。


「お姉様方、ソッチも気になりますが、コッチの準備もお願いしますよ?」

「イイじゃない! ユズルが戻って来ないと始まらないんでしょ?」

「確かにそうですが。では早々に負けてもらって――」


「「当然、優勝よ!」」


 睦美の冗談に、被せ気味にお姉様たちが声を荒げた。


「ですよねー」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 2階 応接室――


 塔から隠密に膜張まで移動する手段を検討しているレヴィたち。


「壱号機は定員2名だぞ? あと四人はどうするのだ?」

「まさか、零号機も駆り出すのですか?」

「あれは静流様の機体であります! 勝手には乗れないのであります!」


 ココナたちがやいのやいの言っているので、レヴィは黙らせた。


「静粛に。皆さんが不安がるのも当然。でも大丈夫です……多分?」

「そんな曖昧な……自信があるなら、はっきり言いきって下さいよぉ」


 そんな態度のレヴィに、萌はツッコミを入れた。


「聞かせてもらおうか? その策を」

「APC、装甲兵員輸送車を使います」


 装甲兵員輸送車は、車内に歩兵を乗せて戦地まで運ぶ装甲車である。

 主なスペックは、


  定員 2人(運転席)+8人(歩兵)

  寸法 L7.0m W2.50m H2.6m

  他  8輪 最大重量 20t


 であった。


「それに残りの人員を乗せ、ラプロスの脚部に固定し、移動します」

「フム。待ってろ」パシュ


 ココナは腕に付けている通信機で、リアを呼び出した。


「リア、起きろ!」

〈どうしたココナ、出撃か?〉

「相談がある。実はな……」


 壱号機のOSとして機能しているメルクの分身であるリアと相談しているココナ。


「……と言うわけだ。いいか? これは隠密行動だ。メルクにも気取られてはならん!」

〈それは難しいと思うがの……〉

「勘づかれた時は『野暮用』とでもしておけ!」

〈わかった。善処する〉


 通信が終わり、ココナは一同に伝えた。


「輸送には問題はない。問題はメルクとの交信でバレる可能性が高い、と言う事だ」

「それなら急いだほうがイイですね。今は『ポケクリバトル』に気を取られているでしょうから」

「わかった。ランデブーポイントをセットしよう」

「とりあえず、APCがあるアスガルドにお願いします」


 レヴィはアスガルドの仁奈に念話を入れた。


〈石川少尉殿、お疲れ様です〉

〈あらレヴィ、どうしたの? 念話なんて珍しいわね?〉

〈これから膜張に行くのですが〉

〈今から!? てっきり朝早くから行ってると思ってた〉

〈色々ありまして。それで、早急に第一格納庫にAPCを用意出来ますか?〉

〈イイけど? あ、何か面白い事やってるな?〉

〈まぁそんな所です。では後程〉

〈ちょっと待って、今から一人追加って、出来るぅ?〉

〈少尉殿は、人ごみが苦手、だと思っていましたが?〉

〈イイじゃない。リリィもいるんでしょ? 私も静流クンに会いたいしぃ〉

〈……わかりました。APCの件、お願いします。あと――〉

〈少佐の事でしょ? わかってる。上手くやるから〉


 念話を終え、一同はアスガルドに繋がっている【ゲート】に向かった。 




              ◆ ◆ ◆ ◆




ポケクリバトル会場 14:45時――


 準決勝後半の準備を始める蘭子たち。


「……の配置で行く。イイな?」

「わかった。頼むぜ、シズムちゃん」

「シズム、最初からフルパワーで頼むよ」

「うん、わかった♪」


 作戦タイムが終わると同時位に、シロミからアナウンスが入った。


「それでは早速、準決勝後半、グループCとD、試合開始です!」



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 最後のメンバーの設定が終了すると、『準備完了!』の表示が出て、すぐにカウントダウンが始まった。


「3・2・1 READY GO!」



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 対戦が始まり、フィールドにそれぞれのポケクリが召喚された。

 グループDの召喚したポケクリを見て、観客たちがどよめいた。


「な、なんだ? ありゃあ?」

「あれは……『マジモン』じゃねぇか?」


 シロミが実況を始めた。


「おーっと! グループD、『マジックモンスター』の『アーマード・テンペスト・ドラグーン』を召喚したぁー!!」



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 『アーマード・テンペスト・ドラグーン』は、白亜紀の肉食恐竜を思わせる体に、装甲に近い鎧を装着している。

 『マジックモンスター』は、『ポケットクリーチャー』とは別のゲームソフトである。


「恐らく、MODで改造したのでしょう。しかし、やる事がえげつないですね……」

「属性は何になるのでしょう? 強いて言えば『ヨロイ』でしょうか?」


 グループDが他に召喚したものは、見た目は通常のポケクリの様だった。

 観客の視線がグループCに向かうが、上がったのは落胆の声だった。


「おい、さっきと違うのって、『ギシアン』が入った位じゃねぇの?」

「Cは大丈夫か? 」


 グループCは、相変わらず蘭子がブルーアイズで、素子が『ギシアン』に代えた位であった。


「おーっと! 凄まじい速さで次々と相手にダメージを与えている者がいます!」

「なんと! 『ペカチュウ』です!! プレイヤーは『自サバ女』さん!」



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 シズムが操る電気系ポケクリの『ペカチュウ』は、進化前で非力な事もお構いなしに、相手に【肉球百裂拳】をヒットさせている。


「一打一打は弱いが、これでだけの連打、最早格闘ゲーのハメ技に近いです!」

「『自サバ女』さんは、噂によるとデモ対戦での個人別成績トップの『5S様』かも知れないとの未確認情報もあります!」


 ドラグーンの方に動きがあったようだ。


「おーっと、ドラグーンが大技を繰り出すつもりか? 『溜め』に入った!」

「あの長い尾で薙ぎ払う、一度に広範囲の敵を倒す大技【デストロイ・テール】を繰り出すつもりでしょう」


 ドラグーンが尻尾で薙ぎ払うモーションに入った時、フェアリー系ポケクリが前に立ちはだかった。


「おーっと! ドラグーンに、『ギシアン』が【怠惰】を発動!」ぱぁぁ


 ギシアンの【怠惰】を浴びたドラグーンが、硬直し、呆けた顔になっている。


「効果は抜群だ! ギシアン、すかさず【堕落】を発動!」ぽぉ


 【堕落】を浴びたドラグーンは、やがて横になり、丸くなって寝てしまった。



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 周りを見ると、ドラグーン以外のポケクリは、シズムを始め、達也やユズルが少しづつ与えたダメージが蓄積され、最早虫の息だった。

 それを見た蘭子は、技ゲージが溜まった事を確認し、ブルーアイズにコマンドを入力した。


〔お蘭! もう頃合いだろ? ぶっ放せ!〕

〔よし! 総員離脱!〕


〔〔〔〔了解!!〕〕〕〕


 グループCのプレイヤーが同時にフィールドから離脱する。


「こ、これはグループCの勝ちパターンか!?」

「ブルーアイズが技を発動するようです!」


 

〔出力最大!【メガ・ブラストファイヤー】!!〕ブワァァァ!



 ブルーアイズから、今までの試合で最大の炎がグループDのポケクリたちを容赦なく襲った。

 程なく全滅となり、試合が終わった。



 ピピィ~!



 試合終了のホイッスルが鳴った。  


「グループD消失! 勝者、グループC!!」



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 結果、グループCは決勝に駒を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る