エピソード51-13

献血カー 12:05時――


 献血カー内の面々に、リリィが報告した。


「はーい、皆さん、昼食の用意が出来ましたよぉ~」

「奥が食堂になっています。行きましょう」


 睦美にそう言われ、ソファーから立ち上がる面々。


「ふぁあ、今の所出番なしか」

「これからですよ。ドクター」


 睦美たちは早々と食堂に向かったが、お姉様たちと学校の面々はユズルを待っていた。


「ユズルは? まだ戻って来てないの?」

「そうみたいですね。何やってるんだか……」

「誰だ? ユズルってよ?」

「シズムちゃんのアニキって設定で、静流が作ったキャラだ」

「静流が芸能事務所のバイト用に用意したのよ」

「何だそりゃ? アイツ、軍だけじゃなくて、そんなのにも巻き込まれてんのか?」

「まあ、元々流されやすいヤツだからな」


 そんな事を話していると、誰かが入って来た。


「だだいまぁ……ふぃ~。着いた」ドサッ

「す、すいません。ちょっと調子に乗り過ぎて買い過ぎました……」


 両肩のトートバッグを置き、盛大なため息をついたのはユズルだった。


「ユズル!」

「静流の格好したユズル? 何か紛らわしいわね……ん? あっ!」


 真琴ががユズルの顔を見た途端、絶句した。


「お、おい静流!? メガネ、忘れてんぞ!?」

「お静! こっち見んな!」


 メガネ無しの静流に耐性が無いばかりか、【魅了】LV.0が発動してしまう事を達也たちは警戒した。

 真琴は【魔法耐性】はLV.2なので、最近までは耐えられたのだが、静流が潜在魔力レベルがLV.3になり、真琴にとっては危うい状況である。


「私は近親者だから問題無いのよね。獣化した時は効いたらしいけど……」

「私は大丈夫。全て受け止める。バッチコイ!」


 薫子は近親者で、忍は【毒耐性】持ちなので、【魅了】は効かないのである。


「フフフ。大丈夫だよ。メガネは着けてるから。ほら」シュン


 不可視化を解き、いつもの瓶底の防護メガネを表示させたユズル。


「あんだよ、おどかすなよ」

「へぇ。便利なもんだな。だったら普段もメガネ無しでイイじゃねぇかよ?」

「だって、二学期の始めにそれやったら、みんなドン引きだったじゃないか」

「そう言えば、そんな事あったな……」


 二学期の始めに、防護メガネを不可視化してクラスのみんなに見せた所、静流のあまりにも端正な顔立ちにフリーズしてしまった事があった。

 蘭子は、サラに声をかけた。


「おいアンタ、先生なんだってな? 同い年なのに大したもんだ」

「ふぇ? あ、そう呼ばれてますけど、大した事ないです……」

「そう謙遜すんなって。で、何を教えてるんだ?」

「……へ?」


 蘭子は『先生』という意味をどうやら取り違えているようだ。


「お蘭、サラちゃんはな――」


 達也が笑いをこらえて蘭子に説明しようとした時、サラが呟いた。


「屈折した愛の形を、教えています」ポォォ

 

 サラはそう言った後、頬をわずかに赤くし、俯いた。


「サラ? よくもまぁそんな事をサラッと言うね? サラだけに?」

「ふぇ? あわわわ、私ったら何て事を……」」


 ユズルに指摘され、自分が言った事に顔を真っ赤にして盛大に照れているサラ。


「ん? よくわかんねえけど、スゲェって事だなっ」

「おいおい……今ので納得したのか?」


 何故か納得した蘭子に、ただ呆れる達也だった。




              ◆ ◆ ◆ ◆



食堂 12:15時――


 インベントリ内の仮設宿舎を、今回のベースとして借りた桃魔術研究会。

 多目的スペースの奥にある食堂は、教室程の広さであり、ちょっとしたフードコートの様だった。

 受付には作業用ゴーレムが二体対応し、奥の厨房でも作業用ゴーレムがせわしなく働いている。


「ひゅう。スゴい品ぞろえだな? どれでもイイのか?」

「もちろんニャ。遠慮なく注文して下さいニャ」


 食堂にいたロコ助が注文方法を説明していた。


「じゃあ、俺、ミニカレーセット温かいソバにコロッケ別皿ね」

「アタイはカツ丼の『松』にとん汁!」

「私は…チーズ牛丼キムチみそ汁セット、チーズだくでお願いしますっ」


 達也、蘭子、素子は、物凄い種類のメニューから、思い思いの品を選んだ。

 順番を待つ間にユズルはサラに聞いた。


「サラは何にする?」

「ユズル様と同じものが……イイです」


 サラは顔を赤くして、俯きながらそう言った。

 そこに、後ろにいた真琴が口を挟んだ。


「サラちゃん? 止めといた方がイイわよ?」

「ふぇ? 何でですか? 真琴さん?」


 真琴がそう言うと、サラが首を傾げた。


「そうだな。『イナゴ丼』かな? コオロギの素揚げをトッピングで」

「ふぇぇぇぇ!?」


 サラの顔が次第に青くなっていった。


「虫!? 虫を食べるんですか? バグですよ?」 

「うん。 栄養あるし、香ばしくて美味しいよ♪」パァァ


 このシチュエーションでは、サラの顔はニパを食らってもさすがに青いままだった。


「うぅ……Bランチ、お願いします」

「でしょう? アイツに何でも合わせる必要無いのよ。私、シェフの気まぐれパスタね」


 顔色が優れないサラを、真琴が介抱した。


「ええと、ワニの串焼きと、コウモリのスープ」

「オオカミウオの刺身定食と、タランチュラの素揚げも」


 薫子と忍が注文したものの内容が気になるが、あえてツッ込まない面々。

 最後にブラムが受付に注文した。


「オヤジ、いつものをくれ」

「いつもの?」


 ブラムが注文したものが気になっていると、入り口から白黒ミサとシズムが入って来た。


「「お疲れ様です。皆様」」

「アニキ、ただいまぁ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 昼食をとりながら、睦美がポケクリバトル組に話しかけた。


「午後から団体戦だが、準備は出来ているのか?」 

「ああ、やるべき事は全てやった。『果報は寝て待て』ってヤツやな」

「『人事を尽くして天命を待つ』、とも言いますね」


 睦美の問いに、カナメと素子が答えた。


「要は『まな板の鯉』ってヤツでしょ? なるようにしかならねぇッスよ」


 みんながことわざや慣用句を並べるので、蘭子はいちいち首を傾げている。


「よくわかんねえけど、勝つ自信はある!」

「よくわかったよ蘭子クン。細工は流々って事だね」


 自信に満ちた顔の蘭子に、睦美は大きく頷いた。

 

〈おい! 何だか風向きが変わったみたいだぞ?〉


 テーブルに置いてあったノートPCの画面で、メルクが騒いでいる。


「どうしたの? メルク?」

〈運営から通達が来た。『ルール変更』だとよ〉



「「「「何ぃぃ!?」」」」


 

 蘭子たちは驚いているが、シズムはキョトンとしていた。

 

「それで、『ルール変更』ってのは何処が変わるんだ?」


 一同は運営サイトの『お知らせ』と言うページを開き、覗き込んだ。


「なになに? 応募者が予想より多く――」


 要約すると、変更内容は以下のものだった。


・1プレイヤーが連れて行けるポケクリが4体から1体に変更。

・魔石のカウントは廃止。つまり、相手チームを全滅させるか、時間終了時の残りメンバーの数が多い方が勝ち。

・制限時間が10分から5分に変更。延長は2分ずつ


 カナメが腕を組み、ため息混じりに呟いた。


「フム。ややこしいルールは止めて、ガチで勝負さす、って事やな」

「時間が押してるから、手っ取り早く勝敗を決めたいようですね……」

「あまりにも杜撰過ぎるな。もっとやりようはあったろうに……」

 

 土壇場でルールを変更する、運営の身勝手な行動に苦言を漏らす達也たち。

 しかし蘭子は、薄笑いを浮かべ、呟いた。


「ガチで勝負か……イイぜ。上等じゃねぇか!」

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