エピソード50-14

桃魔術研究会 第一部室――


 放課後に呼び出された静流とシズムを待っていたのは、三人の静流であった。

 顔合わせを済ませ、衣装の確認を行う静流たち。


「あーん。登録完了。 ベー」


 ロディはカタログを口の中に入れ、【リード】したのちに口からイジェクトした。 


「ロディちゃん、便利ねアナタ。私に【ロード】させてくれないかしら?」

「御意。いつでもどうぞ?」


 薫子がそう言うと、ロディは顔を薫子の方に向け、目を閉じた。


「じゃ、頂きます。はむ」むちゅうぅ


 【ロード】パァァ


 薫子がロディの唇を奪うと、口元が淡い光に包まれた。


「んふぅ。よし、バッチリ頭に入ったわ♪」

「経口摂取でなくても、良かったのですが……」


 ロディは顔を若干紅潮させ、うつむいた。

 その流れを見ていた部員たちが、また騒ぎ出した。


「我々は、見てはいけないものを見てしまったのではないか?」

「単なる画像の受け渡しのはずが、何とも妖艶な……」

「む? ロディ殿が照れているぞ?」


 するとブラムが静流に話しかけた。


「じゃあ静流サマには、ウチが送るね。むぅー」


 静流に顔を向け、目を閉じて口をとんがらせるブラムを、静流はスルーした。


「僕はイイんだ。データをコイツに入れるだけだから」

「ちぇー。ウチにもご褒美、頂戴な♪」

「何言ってるの? ブラムがタダで協力するわけないよね?」

「フフフ、バレたかぁ!」


 このやり取りを見た部員たちは、


「お預けを食らって拗ねている静流様、カワイイ。癒されます」

「愛玩動物の誘惑に1ミリも揺らがない静流様、素敵です」


 それぞれの動向を見守っていた睦美のメガネが、照明の光を受け、一瞬輝いた。


「左京、次」

「は。フェーズ1終了! これよりフェーズ2に移行します」

「なぁに? フェーズ2って、美味しいの?」


 左京が発した言葉に、ブラムはまた気の抜けた返事をした。 


「S4の皆様には、ココに用意したそれぞれの役回りを演じて頂きます!」


 左京はあらかじめ記入済みのホワイトボードを引っ張り出した。

  

 略称 S1 静流様  モデル:オールラウンダー シズベール・ゴクドー 通常時:井川ユズル

    S2 薫子様  モデル:攻め シズルー・イガレシアス大尉

    S3 ブラム殿 モデル:甘えん坊 シズミ

    S4 ロディ殿 モデル:受け 静流様 他


「「「おぉ……」」」 


 部員たちがホワイトボードを見て、大きく頷いている。


「流石はGM。ツボを押さえていらっしゃる」

「正に適材適所ですなぁ」


 部員がそう言っている中、静流は不満なのか、睦美に怪訝そうに聞いた。


「シズベールって、確かどっちもアリのキャラでしたよね?」

「うむ。その理由として、今回の接客は俳優の稽古と同じ感覚で臨んで欲しい」

「と、言いますと?」


 眉間にしわを寄せ、静流は睦美に聞いた。


「実は、ミフネの代表から注文が付いてね。『演技の幅を広げる為、色んな客と接するように』とね」

「くぅぅ、何だか気が重いな……」


 理由を知った静流は、額に手をあて、うめいた。


「他の皆さんは、何かありますか?」


 睦美は、他の三人に確認した。


「静流以外の子に触るのはイヤだけど、静流の為だもん、頑張る!」

「ボクっ子ならそのままでやれるから、楽でイイね」

「私は……与えられた役なら、何でもこなす自信があります」


 三人は概ね了承したようだ。


「では、ネット拡散用に、数枚スチールを撮らせて頂く」パチン


 睦美が指パッチンをすると、デジカメを構えた部員が、瞬時に目の前に出て来た。 


「静流キュンは先ず、デフォの井川ユズルに変身して、シズム君とツーショットを頼む」

「わかりました。えと、これか」シュン

「ああユズル様、いつもながら素敵です」


 変身した姿を見て、白ミサが称讃した。

 今思えば、白黒ミサを除いて、睦美たちにこの姿を見せるのは初めてだった。

 目の前のユズルは、髪の色はシズムに合わせて薄い藍色だったが、緩いウェーブのかかったセミロングの髪型や、紫色の色等は、正に『アノ人』だった。

 『ざぁます系』の黒いフレームに、薄いブラウンのカラーレンズのサングラスをしている。


「もしかして、こちらは伝説の『ジン様』ですか?」ざわ…

「設定資料にあったブロマイド、そのままじゃないですか…」ざわ…

「クックック……ママ上に自慢できるぞ!」


 部員たちはユズルの姿を見て、ため息を漏らしながら見入っていた。

 薫子が首を傾げてロディに聞いた。


「静流が変身してる人、良く『薄い本』に攻め役で出てる人に似てるよね? お母さんがモデルにした人かな?」

「ええ。往年のスター『七本木ジン』様がモデルです」


 その話にブラムが割り込んだ。


「誰? 『ジン様』って?」

「静流様の御親戚でいらっしゃいます。かなり前から行方不明らしいですが……」


 睦美は顎に手をやり、大きく頷いた


「ふむ。確かに七本木ジンにそっくりだな。営業戦略かね?」

「ええ多分。事務所のオーダーで、朔也さんに限りなく近い感じになっちゃいましたよ」


 ユズルは後頭部を搔きながら、照れくさそうに睦美にそう言った。


「そのグラサンは?」

「事務所には『絶対外すな!』って言われてて……」

「確かに、防護メガネは機能しているんだろうけど、不可視化は避けた方がイイね」


 かつて、『目が合っただけで妊娠してしまう』と謳われた七本木ジンに瓜二つとなれば、気軽に素顔を晒す事は避けるべきである。


「じゃあ、写真撮ろうか? おい」

「御意! ではこちらに」

 

 睦美に促され、部員はユズルに立ち位置を指示した。

 するとシズムが、てててーっと小走りでユズルに近付いた。


「アニキ! 写真撮ろ♪」ガシッ

「おい、そんなにくっつくなよ、恥ずかしいだろ?」

「へへ。イイじゃん♪」


 満面の笑みで抱き付いたシズムに、照れながら柔らかい口調でたしなめるユズル。


「兄妹でイチャイチャ……妄想が膨らんでいく……」

「これまたシズムン、甘え上手です事。むふぅ」


 仲睦まじい兄弟の写真を数枚撮ったあと、睦美がニヤつきながらユズルに言った。


「次はユズル君、静流キュンとツーショット撮ろうか? ムフ」

「え?……わかりました」


 ユズルは睦美の顔を不安げに見ながら、ロディの横に並んだ。


「そうだな……左京、ちょっとコッチに来てくれ」

「は、はい……」


 睦美は率先して被写体の配置とポーズの注文を付けた。


「静流キュンはこんな感じで壁を背にして、ユズル君は静流キュンを『アゴクイ』で一枚」

「あっ、GM……近すぎます」ポォ


 ユズルは、睦美の指示通りに壁に手を突き、ロディに『アゴクイ』をし、至近距離で見つめ合った。


「こ、こうですか?」

「ああ、静流様」ポォォ


「「「おっほぉぉぉぉ♡♡」」」


 それを見ていた部員たちから、歓声の声が上がった。


「ヤベーやつ、来たぁー!!」

「こ、これが公式の破壊力か……」

「ああ、壁になりたい……」


 その後も、『薫子×ロディ』や、『静流×ブラム』等、あらゆる組み合わせで写真を撮りまくった睦美たち。

 撮ったデータを見ながら、左京は興奮気味に睦美に言った。


「むっほぉ……GM、これはもう写真集にして『コミマケ』に出したらバカ売れするのでは?」

「無理を言う。流石にもう間に合わんよ」

「でしたら『夏の陣』の時では如何でしょう?」

「ふむ。確かにアリかも知れんな……」

「是非、ご一考を」


 撮り終わったデータを吟味し、数枚をネットにUPする事にした睦美たち。


「この辺のをVIPに、これを一般に貼れ」

「御意!」


 睦美に指示され、ホクホク顔でPCに向かう白黒ミサ。


「さぁて、草民たちはどんな反応を示すかな? クククク」

「まぁ、ひっくり返って悶絶するだろうな。クヒヒヒ」

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